1.高効率一重項分裂と長寿命三重項励起状態を同時に発現するペンタセン二量体 二分子間において生じる分子内一重項分裂(SF)は、精密な分子構造の設計により電子的相互作用や生成した三重項の速度論的な制御が期待できる。しかしながら、リンカーの化学構造に起因した分子内一重項分裂を定量的に比較した例は極めて限られている。本研究では、リンカーの骨格間に歪みを導入した配向性の異なるペンタセン二量体を新規に合成した。吸収スペクトル測定において、歪んだ骨格を有するPcD-BiphおよびPcD-3Ph は、直線的に連結したPcD-4Ph に比べて弱い電子的相互作用が示唆された。この分子間相互作用の違いに伴い、一重項分裂の速度定数は減少するものの、その三重項量子収率(ΦT)はΦT =176% (PcD-Biph) と効率的に三重項状態が生成した。特に、PcD-Biphの励起三重項状態の寿命τTは360 ns(粘性溶媒では1μs)となり、PcD-4Ph (15 ns) に比べて大幅な長寿命化に成功した。 2.ペンタセン修飾金ナノ粒子の高効率一重項分裂 有機-無機複合体でSFを発現できれば、高効率エネルギー変換系への構築が期待できる。しかしながら、一般に金属表面上に被覆したπ共役系分子を光励起した場合、迅速な表面エネルギー移動 (SET) によって励起エネルギーは金属表面へ大きく消光されてしまう。したがって、隣接する二分子間の超高速のSFにより励起三重項状態が生成できれば、励起状態そのものの長寿命化へと繋がる。そこで、約50個のペンタセン分子をチオール単分子膜で被覆した金ナノ粒子を新規に合成した。フェムト秒過渡吸収測定によりペンタセンの励起一重項状態から金表面への迅速なエネルギー移動を抑え、ΦT = 172%という高い三重項量子収率で金属表面上でのSFの観測に初めて成功した。
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