研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
15H01095
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
池田 富樹 中央大学, 研究開発機構, 教授 (40143656)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 二光子吸収 / 架橋液晶高分子 / フォトクロミック分子 / 光運動材料 / アゾトラン / スチルベン |
研究実績の概要 |
アゾベンゼンなどのフォトクロミック液晶部位を有する架橋液晶高分子は,光照射により屈曲・回転など様々な三次元運動を示すため,軽量・小型で遠隔操作可能なアクチュエーター材料として注目されている。従来の一光子駆動では,架橋液晶高分子の試料表面近傍に存在するフォトクロミック分子のみが光を吸収して変形に寄与する。一方,二光子駆動においては光吸収に閾値が存在し焦点近傍のみで分子を励起できるため,これを光運動材料に応用できれば,高い空間選択性で光運動を精密に制御することが可能となる。本研究では,二光子駆動可能な新規高分子光運動材料の開発をめざす。 これまでに架橋アゾベンゼン液晶高分子とメタクリレート系非晶高分子を用いて相互侵入高分子網目を形成すると,光応答性や力学強度が飛躍的に向上することを見いだしている。本研究では,架橋液晶高分子と二光子励起クロモフォアを複合化し,エネルギー移動を利用した二光子駆動アクチュエーターの創製をめざす。 フォトクロミック部位としてアゾトラン誘導体,二光子吸収部位としてスチルベン誘導体を合成した。まずアゾトラン誘導体を用いて架橋液晶高分子フィルムを作製し,紫外光を照射すると,フィルムは光源に向かって屈曲した。次に,スチルベン誘導体の二光子吸収特性を評価した。スチルベン誘導体のトルエン溶液に波長600 nmのフェムト秒パルス光を照射すると蛍光が観測され,そのスペクトル形状は一光子励起のものと一致しており,スチルベン誘導体が二光子励起可能であることが分かった。さらに,アゾトランを混合したスチルベン溶液について同様の測定を行ったところ,アゾトラン濃度の増加に伴って蛍光が消光され,スチルベンからアゾトランへのエネルギー移動が起こることが明らかになった。今後はIPNを形成することにより架橋アゾトラン液晶高分子とスチルベン誘導体を複合化し,二光子励起による精密光駆動をめざす。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フォトクロミック化合物としてアゾトラン誘導体二種類(液晶モノマーと架橋剤)を合成した。液晶モノマーと架橋剤の混合比を変えていろいろな混合物を作製し,表面に配向膜(ポリイミド)を塗布してラビング処理を施した液晶セルに封入した。液晶温度まで降温し,配向させたのち重合して架橋液晶高分子フィルムを作製した。そのフィルムに紫外光を照射するとトランス―シス異性化に伴いフィルムが光源に向かって屈曲し,可視光を照射すると元の形状に戻った。すなわち,架橋アゾトラン液晶高分子は光照射によって変形・運動が可能な高分子材料であることがわかった。次に,二光子吸収部位としてスチルベン誘導体を合成し,その光化学特性を評価した。トルエン溶液に波長600 nmのパルス光(150 fs, FWHM)を照射すると蛍光が観測され,そのスペクトル形状は一光子励起のものと一致した。この結果は,スチルベンが二光子励起可能であることを示している。さらに,アゾトラン存在下同様の測定を行ったところ,アゾトラン濃度の増加に伴って蛍光が消光され,スチルベンからアゾトランへのエネルギー移動が起こることが明らかになった。2015年度の研究においては,選定した色素(スチルベン誘導体)が二光子吸収クロモフォアとして機能し,スチルベンからアゾトランへの励起エネルギー移動が起こることが実証された。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は相互侵入高分子網目構造を形成することにより架橋アゾトラン液晶高分子とスチルベン誘導体を複合化し,二光子励起による精密光駆動をめざす。架橋アゾトラン液晶高分子フィルムについてもアゾトラン液晶モノマーと架橋剤の混合比を変え,いろいろな組成比を持った高分子フィルムを作製してその光運動特性を検討する。相互侵入高分子網目構造形成においては,第一網目(架橋液晶高分子ネットワーク)を作製した後,その網目フィルムを第二網目成分溶液(モノマー+架橋剤溶液)に浸漬し,第二網目成分が十分に第一網目に浸透してから重合して,分子レベルでネットワークが相互侵入した三次元網目構造を構築する。複合膜の光運動性能は第一網目の組成比や第二網目の組成比に大きく依存することは明らかなので,これらの組成比をパラメーターとして変化させ,光運動特性を最適化する。 相互侵入高分子網目による複合化の他,アゾトラン液晶モノマー/スチルベンモノマー/架橋剤の三元系共重合体も検討する。相互侵入高分子網目においては,第一網目の組成比は定量可能であるが,第二網目成分がどのくらい第一網目に侵入しているかの定量化は難しいと予想している。三元系共重合を用いれば,アゾトラン液晶モノマー,スチルベンモノマー,架橋剤の混合比を求めることは可能であると考えている。三元系共重合体を作製し,その光運動特性についても精査したい。
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