研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
15H01097
|
研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
柳井 毅 分子科学研究所, 理論・計算分子科学領域, 准教授 (00462200)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 理論化学 / 電子相関 / 光化学 / フォトクロミズム / 励起状態 / ラジカル |
研究実績の概要 |
研究実績は主に2つにある。1.密度行列繰り込み群と呼ばれる電子状態理論を基盤として、高位励起状態に対する高精度な理論的記述を可能とする方法論および計算法の開発を行い、高性能プログラムを完成させた。2.その手法を用いて、領域内研究者と協力して、種々のフォトクロミック化合物の励起状態に対する計算を行った。 1.では、電子励起状態の波動関数を高精度に求める理論のフレームワークとして、多参照理論に基づく電子状態理論DMRG-XMS-CASPT2法を開発した。多CASPT2法は広く用いられている高精度多参照理論であり、計算効率もよく大きな系への適用が期待される。本研究では、このCASPT2法を複数の励起状態を効率よく数値的安定に求めることが可能な拡張理論XMS-CASPT2法の実装を行い、DMRG波動関数を参照関数とする組み合わせを実現した。 2.本手法を用いて、種々のフォトクロミック化合物の励起状態に対する応用計算を行った。応用計算では、領域内の研究者と共同研究を実施した。A03グループの阿部教授らは近年フェノキシル-イミダゾールラジカル化合物(PIC)およびペンタアリルビイミダゾール(PABI)のフォトクロミック分子の開発報告した。本研究では、PICおよびPABIのフォトクロミック分子の機構に関する理論研究を行った。高速分光により反応機構の解明に関する研究は行われてきたが、フォトクロミックの開環反応の具体的反応機構、電子論的理解は不十分であった。そこで本研究では、阿部グループ(A03)および重田グループ(A01)との共同で、高精度電子状態理論に基づく理論解析を行った。特に、開環反応で現れると考えられるラジカル状態を正しく記述するためには、多参照理論を用いる必要があり、1.で開発されたXMS-CASPT2法の適用が重要な役割を担った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、高位励起状態に対する高精度な理論的記述を可能とする方法論および計算法を開発し、それを種々のフォトクロミック化合物の反応機構の解明に応用することである。研究実績の概要でも示したように、高精度計算法の開発・実装は高いレベルまで達成された。実際に、領域内研究者の対象とする分子の励起状態ポテンシャルを提示することに成功している。反応機構の解明として、A03班の阿部教授およびA01班の重田教授との共同研究が稼働しており、反応機構の特定する一定の成果を得ている。我々の計算結果は実験事実とも良い一致をしており、実験では特定の難しい機構の詳細を解明している。
|
今後の研究の推進方策 |
DMRG-XMS-CASPT2法のプログラムは高いレベルの完成度で実装が完了した。CASPT2法に由来する零次近似の不十分さからintruder state問題への対応が不十分であるため、直交化ステップに対するレベルシフト法の簡便な実装を今後試みる。また、応用研究としては、阿部グループのPABI分子の理論研究を行う。PABIの分光測定の結果では、開環状態に過渡的な中間状態があることを示唆している。この中間状態がどのようなものなのかを理論計算から特定する研究を行う。その際に、これまでの励起状態計算のスキームを活用して、励起状態エネルギーポテンシャルを提示する。また、A03班の小畠グループとの共同研究で、ジアリールエテン誘導体の結晶の光吸収帯の電子論的機構の解明をXMS-CASPT2法を利用して行う。
|