公募研究
胸腺は、獲得免疫応答の司令塔となるT細胞の産生と自己寛容の確立を司る中枢免疫器官である。申請者はこれまでに、中枢性自己寛容の成立を担う胸腺髄質上皮細の発生機構の解明とその産生を生涯維持する髄質上皮幹細胞の同定を行ってきた。本研究ではこの髄質上皮幹細胞の活性を制御するメカニズムを明らかにすることによって、胸腺退縮機構の解明につなげるとともに、自己免疫疾患モデルマウスに認められる髄質上皮細胞の分化異常と髄質上皮幹細胞活性との関連を明らかにすることを目的とする。本年度は、髄質上皮幹細胞の同定とその活性を評価することに大きな役割を果たしたコロニーアッセイシステムの感度の改良を行った。その結果、いくつかの培養添加物を添加するタイミングを変更することにより、コロニー形成能の効率を大きく上昇させることができた。これにより、これまで活性の評価が困難であった成獣マウスのコロニー形成能についても定量的評価が可能となった。そこでこの新しいコロニーアッセイシステムを用いて、胸腺髄質に異常があり自己免疫疾患を起こす遺伝子改変マウスの胸腺のコロニー形成能の評価を行った。その結果、全身性自己免疫疾患モデルマウスであるNZBW/F1マウスは、B6マウスと比較して明らかにコロニー形成能が低いことが明らかとなり、T細胞の分化選択に関わる胸腺上皮細胞の幹細胞レベルで何らかの異常を有する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、髄質上皮幹細胞の活性を制御するメカニズムを明らかにし胸腺退縮のメカニズムを理解すること、またその異常が自己免疫疾患などを誘導要因の一つとなりうる可能性について検証することにある。しかしながら、これまで幹細胞活性の指標としてきたコロニーアッセイ法では、胎生期・生後すぐの非常に活性の高い時期のコロニーは検出できても、成獣胸腺では全体的にコロニーが小さく少なくなるため、遺伝子ノックアウトマウスの成獣胸腺における活性をWTと定量的に比較することが困難であった。今回の改良によって、4週齢のマウスからもvisibleなコロニーが得られるようになった。また、全胸腺から(すなわち髄質幹細胞分画を純化せず)形成したコロニーをすべてin vivoに移植すると、髄質・皮質両方の上皮細胞に分化した。すなわち、本コロニーアッセイコロニーを形成できる上皮細胞は、髄質・皮質両方のポテンシャルを有する前駆細胞、あるいはその両方を含むことが明らかとなった。この新たなコロニーアッセイ法を用いて、上述した全身性自己免疫疾患モデルマウスで髄質上皮の異常を呈するNZBW/F1マウスのコロニー形成能を成獣マウスと比較すると、生後直ぐの時点ですでに顕著に活性が低いことが明らかになった。
これまでの結果を受けて、今度主に以下に焦点を当てて研究を進める。1.胸腺髄質上皮細胞の発生や分化は、NFkB関連シグナルが大きく寄与している。そこで、これらのmutantマウスの胸腺を用いてそのコロニー形成能をWTと比較する。これにより、胸腺上皮幹細胞の活性制御や維持におけるこれらのシグナルの関与を明らかにする。2.髄質上皮細胞の分化異常と幹細胞活性の低いNZBW/F1マウスを用いて、幹細胞活性と髄質上皮分化異常の関連を明らかにする。まず、WTマウスとNZBW/F1マウスから形成させたコロニー間で発現に違いのある遺伝子を網羅的に解析する。この知見を元に、NZBW/F1マウスが有する遺伝子発現・シグナルの異常を同定する。胸腺上皮細胞の分化は胸腺細胞からもたらされるシグナルによって活性化されることから、この異常が血球側の以上によってもたらされたのか否かを骨髄キメラ実験を用いて明らかにする。また、先天的な遺伝子異常によるものである可能性が示唆された場合は、NZBW/F1マウスがSLEを発症するのに重要な遺伝子座の中に髄質上皮細胞の分化異常に関わりうる遺伝子がないか、検討する。
すべて 2017 2016 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)
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