研究実績の概要 |
がん幹細胞が、クローン数を減らしすぎず増やしすぎずに腫瘍原性の維持に寄与する機構には、ニッチとの関係だけでなく、圧倒的多数を占めると見られる分化したがん細胞との関わりも含まれると考えた。つまり、がん幹細胞は、分化したがん細胞から競合を受けると考えるのである。また、この競合は、がん幹細胞クローンを根絶しない程度に制御もされているはずである。本計画では、前がんあるいは低悪性度病変からoligoclonalに生じる悪性細胞と周辺細胞のステージ特異的な細胞競合関係に着目、がん悪性進展制御の方策を探索する。また、これまでに、我々の乳がん・前立腺がんモデル細胞が幹細胞性を獲得する機序が、細胞内代謝経路のrewiringを介したIL6, CCL2, CCL5, CXCL2等のcytokine/chemokineや種々の脂質メディエーターによる細胞自律的・非細胞自律的な細胞挙動制御を内包することを見出しており、悪性度の異なる細胞間の競合関係においてこれらの分子が果たす役割を探索する。 Trp53-/-;Rbflox/floxマウス、および、これらに由来する乳腺上皮を樹立、Rb遺伝子のステータスによってがん原性・幹細胞性の変化する乳がんモデルを完成した。これらは、様々なタイターのcre recombinase-GFPアデノウイルス感染を行うことによって、悪性度の異なる2群の細胞が接するin vitroおよびin vivoのインターフェースモデルを提供する。また、MCF-7とMCF10A細胞においてモザイク状にRBを不活性化することによって、異なるRBステータスを有する細胞が接する実験系を創出した。従来よく用いられた、正常細胞 vs. de novoトランスフォーム細胞という対比ではなく、比較的生理的なシーケンスで悪性進展の起こるモデルを作製し、この解析に細胞競合の概念と実験手法を持ち込んだ。
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