公募研究
太陽活動に伴う超高層大気から下層大気にまたがる一連のプロセスは、高度間でその物理・化学的な状況がかなり異なっているため、これまで統一的には理解されてはいなかった。しかしながら、地表から超高層大気までを対象とする3次元化学気候モデルの近年の発展により、その高度範囲における複雑なプロセスの理解が可能となってきた。本研究では、太陽活動の超高層大気への影響、およびその影響が中・下層大気へ及ぶプロセスを、詳細な化学反応過程を導入した化学ボックスモデルと輸送過程を再現できる3次元化学気候モデルを併用し、明らかにし、宇宙空間から下層大気までを一体として捉える研究の先駆的な一例となることを目指す。今年度は、太陽プロトンイベントに対する大気微量成分濃度変化を計算するためのボックス化学モデルおよび3次元化学気候モデルの開発、整備、検証を行った。2003年10月下旬~11月上旬に起こったハロウィーンイベント時のプロトンの極域大気侵入に対するDoseを計算し、ボックスモデルへそれをインプットしてNOx生成率を高度毎に計算した。北極域および南極域の高度50kmと60kmのNOx濃度の計算結果を、MIPASによって観測されたNOx濃度の変化と比較したところ、ボックスモデルは観測された変化を再現できていることがわかった。さらに、ボックスモデルで計算された高度毎のNOx生成率を化学気候モデルの北極域と南極域に与えてオゾン濃度やNOx濃度の3次元分布計算を行ったところ、北極域、南極域成層圏におけるオゾン濃度やNOx濃度の変化は、MIPAS観測によるものとかなり近い変化が得られ、3次元化学気候モデルの有効性を検証できた。また、太陽プロトンイベントの影響は、北極域や南極域以外の緯度にも及んでいることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
本課題による研究が開始される前に、ある程度のモデルの開発および調整を行っていたため、計画していた数値実験がスムーズに進んだ。
2003年のハロウィーンイベント時のオゾンやNOx濃度変化の衛星観測データ(MIPAS)をモデルによるシミュレーション結果と比較することによって、モデルの有効性が検証できたので、今後は、過去に起こった巨大太陽プロトンイベント(1859年のキャリントンイベント)に対して、その影響が対流圏大気や地表近くにまで及ぶかどうかに焦点を当てた研究を進める。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Geosci. Model Dev.
巻: 10 ページ: 639-671
10.5194/gmd-10-639-2017