小脳バーグマングリア選択的に発現するCDC42EP4に着目して遺伝子欠損マウス系統を樹立し、以下の所見を得た。①平行線維-プルキンエ細胞間のグルタミン酸作動性シナプスを被覆するバーグマングリア突起において、CDC42EP4とセプチン線維はシナプスに面する細胞膜直下に集積する。②両者は複合体を形成し、ミオシン-10やグルタミン酸トランスポーターGLAST/EAAT1とも相互作用する。③CDC42EP4欠損によってこの相互作用が減弱し、GLASTはシナプスから遠ざかる方向に脱局在する。④電気生理学的には上記シナプスのEPSPが軽度に遷延するのみであるが、グルタミン酸トランスポーター阻害剤DL-TBOAの添加に過敏に反応し、後シナプス膜電位が顕著に上昇する。⑤運動学習障害は軽度であるが、野生型では無効な低濃度のDL-TBOAの投与によって重篤化する。以上から、CDC42EP4-セプチン複合体はGLASTをシナプス近傍に集積させる足場ないし拡散障壁としてグルタミン酸クリアランスに寄与することが示唆された(Nat Commun 2015)。グルタミン酸クリアランスを遅延させる形態異常の合併の可能性を精査したところ、CDC42EP4欠損マウスではBG突起先端がシナプス間隙から後退する一方、前後シナプス膜の接着領域が辺縁部でのみ拡大していた。N-cadherinや非筋型ミオシン重鎖ⅡB/MYH-10などニューロン側の接着関連分子の増加や、最近報告されたGLAST欠損マウス(宮崎らPNAS 2017)との類似性から、この異常は過剰なグルタミン酸に対するニューロン側の2次的反応と推測される。グルタミン酸滞留に起因するこのようなシナプス再編成は、細胞外死腔を拡大することでグルタミン酸クリアランスをさらに遅延させ、悪循環をもたらす可能性がある(Neurochem Int 2018)。
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