公募研究
細胞のがん化の過程では、ゲノム上に存在する2-3万もの遺伝子から特定遺伝子の選択的な発現が失われ、無秩序な発現形式に陥る。そのため、遺伝子発現調整システムの破綻の本質的な理解のためには、ヒストンバリアントの選択、そしてヒストン修飾からクロマチン高次構造に至る情報を全ゲノムレベルで明らかにしていく必要がある。そのなか我々は2015年に、コンピュータを用いたヒストンバリアントの探索手法を開発し、マウスおよびヒトに存在する未知のヒストンH3様のバリアント遺伝子を多数報告した。そこで本研究では、これらヒストンバリアントを軸にしたクロマチン変動機構の全ゲノムレベルでの解析によって、発がんにおけるヒストンバリアントの機能破綻の解明を目指している。本年度は、ヒストンの新規バリアントが果たす固有の機能を中心にして共同研究の成果を発表してきた。精巣特異的バリアントとして同定されたヒストンH3tを破壊したノックアウトマウスでは、雄が無精子症となり、不妊となることを明らかとし、論文報告を行った。また新規のヒストン修飾については、co-localization modelによって、H4K20acが遺伝子発現抑制と関わる核内因子を国際エピゲノムデータベースより探索・同定し、論文発表した。一方で、ヒト固有のバリアントと考えられるH3.6, H3.7, H3.8については、これらを含むヌクレオソーム構造の安定性を評価し、ChIP-seqデータの解析によってゲノム上の特徴的な局在のパターンを明らかとしており、本成果については論文投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、ヒストンバリアントの機能解析については共同研究の成果もあがっており、進捗はおおむね順調である。
マウスにおける新規H3バリアントのひとつが、遺伝子の発現を調整する可能性を見出しており、次年度の論文発表を目指す。また、がん細胞において特徴的に形成あるいは破壊されるようなクロマチン構造を明らかにすることを目的として、多種多数のエピゲノムデータから特徴的クロマチン構造を抽出する情報解析手法の開発を行いながら、がん組織細胞データへの適用を行う。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
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http://tx.bioreg.kyushu-u.ac.jp