研究領域 | ナノスピン変換科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05179
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
横山 毅人 東京工業大学, 理学院, 助教 (30578216)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 歪み / スピン流 |
研究実績の概要 |
電荷によるスピン(磁性)の制御、またスピン(磁性)による電荷の制御を目的とした研究分野はスピントロ二クスと呼ばれる。特に重要な概念は純スピン流である。これはアップとダウンのスピンを持つ電子が逆の速度を持つことによって生じる電流を伴わないスピンの流れである。純スピン流は時間反転に対して偶の対称性を持ち、従って散逸を伴わずにスピンを運ぶため、省エネルギーデバイスに利用が期待されている。 本研究の目的は格子歪みという自由度に着目し、歪みに起因したベリー位相を用いて、金属において歪みによるスピン流及び磁化生成を調べることである。本研究で明らかになる新奇なスピン変換のメカニズムは、すでに実験的に確立された技術を使って検証することができるため実験への波及効果も期待される。 具体的には、スピン軌道相互作用のある金属に外部から歪みを与えた系を考え、スピン流及び磁化生成にどのような対称性の破れが要求されるか調べた。歪みを1パラメータで表し、空間3次元と加えた4次元空間における半古典的運動方程式を用いた計算の枠組みを検討した。歪みに起因するベリー曲率及び軌道磁気モーメントを含むボルツマン方程式を用いてスピン流及び磁化の定式化を検討した。モデルとしてワイル半金属のハミルトニアンを用いて計算を考えている。 今後、検討中の計算をさらに進める。また、得られた結果を用いてどのような状況でスピン流と磁化が大きくなるか検討する。また、現実の物質として対称性の低いTeおよびMnSiを想定した定量的な計算も行い、実験で測定可能な大きさの応答を示すかを明らかにする。当該領域の実験家と議論し実験的提案も行う。特に歪みを与えるためにどのような基盤を使うのが良いか議論する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通りに、スピン流及び磁化生成にどのような対称性の破れが要求されるか調べ、計算の枠組みを検討できたため。
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今後の研究の推進方策 |
検討中の計算をさらに推し進める。次に、スピン軌道相互作用のある金属に次の摂動を加えた場合を考える: (i)外部からスピン流を注入する。 (ii)磁場を印加する。 これらの摂動により生じる格子振動を調べる。スピン流注入及び磁場印加による格子振動の生成を予言する。フォノンの波束の満たす半古典的運動方程式を導出する。その際、フォノンがボゾンであることに注意する。この半古典的運動方程式が含むベリー曲率にスピン流や磁場の影響が取り込まれる。また、オンサガー相反性の観点から前年度の研究結果との関係性を調べる。具体的な知見を得るため、モデルとしてワイル半金属のハミルトニアンを用いて計算を行い、解析的な結果を用いてどのような状況で格子振動が大きくなるか明らかにする。また、TeおよびMnSiなどの現実の物質を想定した定量的な計算も行い、実験の指針を与える。当該領域の実験家と議論し実験的提案も行う。 また、最局在Wannier関数を用い第一原理計算を援用してより実験に即した定量性の高い予言も行う。数値計算を迅速に行うため、研究室に設置の計算機や平成30年度に導入予定の計算機を用いて計算し、必要な場合は東京大学物性研究所のスーパーコンピュータを用いて数値計算を行う。 本研究で想定している金属へのスピン流注入、磁場印加、及び歪み印加はいずれもすでに実験的技術が確立しており、実験家と相談して早期に本研究の予言の実験的検証を実現させたい。そのために本研究で予言する現象を示すできるだけ多くの物質を探索する。
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