研究実績の概要 |
本研究の目的は、格子の巨視的回転運動と微視的スピン角運動量の相互変換の可能性を実験的に検証することにある。これを実現するため、表面弾性波の一種であるレイリー波に含まれる格子の巨視的回転運動を利用し、回転運動⇒スピン流の変換効率を大きくする条件の探索、強磁性体を用いたスピンポンピング由来のスピン流、およびスピンホール効果由来のスピン流から格子回転運動への逆変換実験を行なった。その結果、次のような結果を得た。 (1)レイリー波を注入するスピン流生成金属として銅(Cu), チタン(Ti), 珪素(Si), 白金(Pt)薄膜を比較したところ、スピン流強度が金属膜の電気伝導度に比例して増加することがわかった。これに対し、金属のスピン軌道相互作用の大きさとスピン流強度の間には大きな相関が見られなかった。さらに、スピン流強度はレイリー波の周波数の3~4乗に比例して増加することがわかった。電気伝導度と回転運動の周波数によりスピン流強度が変化する特徴は、スピン軌道相互作用を利用してスピン流を生成するスピンホール効果とはまったく異なるものである。 (2)逆変換(スピン流⇒回転運動)を高感度に検出できるデバイス構造を探索するため、格子変位を確実に誘引できる磁歪効果を利用し、これをレイリー波に変換する実験を行なった。その結果、磁歪材料をレイリー波の波長と整合するような周期構造に微細加工することにより、磁歪由来の格子変位をレイリー波として検出することに成功した。この結果より、スピン流から格子回転への逆変換において、スピン流を注入する金属膜を細線アレイ化し、その周期をレイリー波の波長と整合させることが重要な設計条件であることがわかった。
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