研究領域 | 冥王代生命学の創成 |
研究課題/領域番号 |
17H05235
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤原 慶 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (20580989)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 合成生物学 / 人工細胞 / 生命の起源 / システム生物学 |
研究実績の概要 |
本研究では、我々がこれまでに見出した「生命システムの高分子濃度依存性」と「乾燥・浸透圧による高分子濃縮現象」を基盤とし、ハビタブル・トリニティ仮説における浜辺によって生じたはずの乾燥、濃縮、水和に着目した高分子濃度遷移と生命機能相の解析を通し、冥王代に生じた生命の起源における高分子濃度シナリオを検証することを目的としている。 H29年度は、冥王代における高分子濃度の必要条件と混雑条件について、申請者らが確立した乾燥や浸透圧による生命システム起動系を基盤として検証した。乾燥・浸透圧による高分子濃度の濃縮と生命システムの活性相関を数値シミュレーションにより解析したところ、転写翻訳系においてはシステム要素全体の濃度に対し、非線形的に活性が変化することが見出された。この事実は、要素全体を10倍希釈することにより200倍のタンパク質合成量の低下が観測されることを示唆した。実際に実験を行ったところ、この要素濃度依存性は再現された。また、5倍希釈条件とその後の5倍濃縮により転写翻訳機能がスイッチングすることが示された。希釈濃度と再活性化の上限を調べたところ、少なくとも100倍の希釈と濃縮によるスイッチングが起こりうることが示された。また、高濃度細胞抽出液で転写翻訳系が機能しなくなる要因を生化学反応シミュレーションで探索したところ、mRNA量と転写翻訳装置濃度の相関が示唆された。そこで転写の原料であるNTP量を振った無細胞転写翻訳系を解析したところ、高濃度NTPにおいて観測される転写翻訳阻害が高濃度抽出液では見られなくなることが明らかになった。このことは、高濃度抽出液系では従来までの低濃度系と比較して至適反応条件が大きく異なることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
転写翻訳におけるシステム濃度依存性をシミュレーションと実験により明確にすることと、システム濃度変化による転写翻訳系のスイッチングに成功したため。また、当初は2年目に計画していた高濃度細胞抽出液における転写翻訳の阻害に関して、NTP濃度との相関というデータが得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ごく最近開発した試験管内ゲノム転写翻訳系(藤原らNAR 2017)を用い、より生命に近い条件での冥王代における高分子濃度シナリオに迫る。また、濃縮による転写翻訳装置のONにて膜タンパク質を合成することで、より生命の起源に近い環境とのやり取りの創発が可能となるかを検証し、冥王代における生命創成が高分子濃度と相関してどのように生じたかについて考察する。
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