分子振動モードとプラズモンモードとの強結合が分子の振動状態だけではなく、電子状態にまで影響を及ぼすことを明らかにするために、平成30年度は赤外の幅広い波長域において高い光電場増強効果を示す金属ナノ構造体の構造設計を明らかにした。まず、可視波長域において光ナノ共振器と金ナノ微粒子のプラズモン共鳴がモード強結合を示して、幅広い波長において高い光吸収と光電場増強効果を示すことを明らかにした。特筆すべき点は、プラズモンの位相緩和時間が、モード強結合に基づくプラズモン状態の変調により変化することを明らかにした点である。この可視域におけるモード強結合の原理を利用して、赤外域に共鳴を示す構造設計に展開した。石英基板上に厚さ100 nmの金フィルムを成膜し、その上に厚さ450 nmの酸化チタン層を成膜することで、2400cm-1に共振を示すファブリ・ペロー共振器を構築した。その上に電子ビームリソグラフィー/リフトオフ法により赤外に波長選択的にプラズモン共鳴を示す金ナノチェイン構造を作製したところ、2000~4000cm-1においてモード強結合によりスペクトルが分裂する現象が観測された。また、金ナノチェイン構造の長さにより共鳴波長を変化させたところ、共鳴効率の増大により顕著に赤外光の吸収効率が増大することを吸収スペクトル測定から明らかにした。つまり、赤外の幅広い波長域で高い光吸収と光電場増強効果を示す構造が得られた。この構造に蛍光分子であるEosin Yを成膜したところ、Eosin YのOH伸縮振動と赤外モード強結合が強い相互作用を示し、蛍光寿命が赤外波長における光電場増強の大きさとともに顕著に且つ系統的に短くなること、そして解析の結果、赤外振動モードと光場の相互作用により無放射失活が大きくなることが示され、高次の電子状態に強く影響を及ぼすことが明らかとなった。
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