研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
17H05247
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
景山 義之 北海道大学, 理学研究院, 助教 (90447326)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リミットサイクル / 自己組織化 / 散逸自己秩序形成 / 有機結晶 / ソフトクリスタル / 光異性化 / 自律運動 / エネルギー変換 |
研究実績の概要 |
本公募研究では、アゾベンゼン誘導体を含む結晶の、青色光照射下における自己励起型振動運動を対象に、その発現機構の分子構造の視点に立った理解を推し進めることで、継続運動が可能な分子デバイスを創出する学理の形成につなげることを目指している。この一年間の研究では、脂肪酸を含まないアゾベンゼン誘導体の結晶での振動運動の実現と、その結晶の構造解析を進めることができた。 結晶構造解析から、自励振動を実現する結晶中には、6個の結晶学的に独立なアゾベンゼンが存在することが分かった。光定常状態での異性化率の平均値は、cis体がおよそ5%弱であることから、単位格子2胞分の12個のアゾベンゼンのうち、1個がcis体になることで結晶の相転移が起こるのではないか、という推察ができるようになってきた。 結晶構造解析から、結晶内の分子の熱運動が大きい「柔らかな結晶」であることが分かった。特に、「極めて柔らかな層」と「選択的な分子間力が働くことでそこそこの柔らかさになった層」が互い違いに重なった“交互積層型”の結晶であることも明らかになった。なお交互積層型という用語は通常は複数種の分子が交互に積層している場合に用いる用語であるが、ここでは、分子運動の強さの異なる層が交互に積層しているという意味で用いている。運動性の異なる層の集積という概念での有機結晶研究はおそらくないことから、新たな学術用語を創出するべきかもしれない。 顕微吸光度計測による振動運動をする結晶の吸光度は、0.02以下であり、結晶がほぼ無色であることが証明された。これは、旧来の光誘起型の結晶や高分子の曲がる機構とは違う機構で運動が発現していることを示している。なお、同装置を用いた光異性化率のリアルタイム計測は、計測系の検出下限に抵触したため実現できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では、結晶内での分子の集積状況をMD計算で推定し、自励運動について自己矛盾のない推測と考察を計画していた。しかし、単結晶X線構造解析により結晶構造解析を解くことができたことにより、計画以上の「確からしさ」を有した研究へとつなげることができている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に計測できた単結晶構造解析データをもとに、アゾベンゼン誘導体を設計し合成することで、光照射下で自励振動運動する結晶のボトムアップ型創出を目指す。 また、高輝度光源を用いたXRDやラマン分光により、結晶内での分子ダイナミクスの計測を共同研究にて実施する。 さらには、不安定状態にある転移後の結晶の単結晶XRD計測を試みる。 これらの研究を通じて、また分子集団の非線形運動についての基礎物理を化学の用語で表現したアウトプット活動を通じて、「分子機械が創出する自律分子システム」の学理形成へとつなげる。
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