電荷移動錯体Cu-TCNQはバルク結晶の組成比がCu : TCNQ = 1:1で、電場印加や光照射によって導電性が可逆的に変化するスイッチング挙動を示すことから、抵抗変化型メモリ材料として期待されている。このような抵抗スイッチングはCu-TCNQ結晶の電荷移動量γの変化に起因しており、電場印加や光照射によって高抵抗状態から低抵抗状態へと転移することが明らかになっている。一方、研究代表者らはナノ結晶化と化学ドーピングを同時に行う「還元共沈法」を考案することで組成比や電荷移動量γを制御し、電荷移動錯体を不安定化する糸口を見出してきた。そこで本申請研究では、Cu-TCNQのナノ結晶化とドーピングを行い、その光・電場誘起相転移挙動を明らかにすることで、一光子吸収と一分子応答を越える協同的光応答系の創出と制御手法の開拓を目指した。 還元共沈法を駆使することで、バルク結晶とは組成比が異なるCu-TCNQナノ結晶を作製することに成功した。得られたナノ結晶ではバルク結晶よりCuが過剰であるものの、全て+1価で存在し、TCNQはアニオンラジカルに加えてジアニオンが存在することから、分離積層構造におけるTCNQカラム内の電子密度はバルク結晶に比べて電子過剰状態であることが示唆される。得られたナノ結晶薄膜に電圧を掃引したところ、バルク結晶には見られない多段階抵抗スイッチングを示した。これは、ナノ結晶に含まれるTCNQジアニオンが関与したCuへの段階的な電荷移動に対応しており、TCNQ積層カラム内のキャリア濃度が変化することに起因している。以上を踏まえて、ITOガラス電極上に作製したナノ結晶単層膜にバイアス電圧を印加しながら光照射を行った。その結果、バルク結晶には観測されない低抵抗状態から高抵抗状態への抵抗スイッチングが確認されるとともに、バルク結晶より低閾値での光誘起スイッチングが可能であった。
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