研究実績の概要 |
エネルギー密度の低い太陽光を光エネルギー変換系に利用するためには、超高速エネルギー移動による効率の良い光収穫系の作成が必要である。本研究では、光合成の光収穫系複合体(LH2)を用い、LH2内の色素(バクテリオクロロフィル:B800, B850)による吸収強度の低い波長領域に吸収・蛍光波長帯を有する人工色素を結合させることにより、吸収波長帯を拡張したLH2を作成し、その超高速エネルギー移動を調べる。2年目において、 前年度の成果をさらに発展させ、LH2に結合させた蛍光色素(ATTO647N)が吸収した光エネルギーを光化学反応に用いることができることを初めて示した。光収穫系複合体ー反応中心コア複合体(LH1-RC)とバイオハイブリッドLH2を脂質二分子膜分子集合系を用いて共存させることにより、ATTO647N→B800/B850→LH1→RCへの連続的な超高速エネルギー移動が天然系と匹敵する速度で起こる事がフェムト秒過渡吸収計測により明らかとなった。興味深いことに、脂質二分子膜という分子集合系においてエネルギー移動速度が顕著に増大することがわかった。これは、疎水性の蛍光色素であるATTO647Nが脂質二分子膜中に選択的に導入され、アクセプターのB800/B850との配向性を有すること、膜への導入によりB800/B850との相対距離も減少し、これら2つの要因により顕著なエネルギー移動速度の増大する要因となっていると結論づけられた。さらに、ATTO647Nにより窮されたエネルギーがRCでの電荷分離反応に効率よく使われていることもわかった。電極上でこのバイオハイブリッドLH2とLH1-RCを共存させると、ATTO647N励起による顕著な光電流が観察された。この結果から、光捕集系と光触媒系とが効率よく結合していることが示された。
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