公募研究
本申請研究においては、①複合的に励起することにより、太陽光のような微弱な赤外光をアップコンバージョン(UC)可能な新規複合材料の創製を目指す。UCによる赤外光の紫外~可視光への変換は、ライフサイエンスを中心とした領域において精力的に研究されている現象であるが、近年、太陽電池や光触媒などの光/エネルギー変換の観点からも注目を集めている。太陽エネルギーのおよそ44%を占める赤外光を有効利用することが可能になれば、現行の太陽エネルギー産業と研究に大きなインパクトを与える。現在主流となっている希土類イオンを使用したUCは、多光子反応であり、また、希土類イオンの吸光係数が低い等の問題から、レーザーなどの強力な光源が必要不可欠であった。そこで、申請者は太陽光のような希薄な光を効率的にUCする方法として、該当領域の提案する複合励起を使用することを提案する。平成29年度は、UC複合材料として三重項アクセプター修飾量子ドット(ペリレン修飾CdTeナノ粒子)の合成を行い、量子ドットからのエネルギー移動過程を直接観察することに成功した。現在までに報告されているQDからのエネルギー移動過程は量子ドットのブリーチの回復から求められたものが多いが、研究代表者は三重項の過渡吸収スペクトルの立ち上がりから直接エネルギ―移動過程の調査に成功した。また、三重項アクセプターの粒子表面における修飾量を制御することで、三重項アクセプター修飾量子ドット上での三重項対消滅過程の観測に成功した。これらの成果は、三重項アクセプター修飾量子ドットを用いることによりアップコンバージョン過程が進むことを強く支持している。
1: 当初の計画以上に進展している
研究代表者はすでに量子ドット上でのエネルギー移動過程の直接観察に成功しており、エネルギー移動効率を左右する支配要素を明らかにしつつある。さらには得られた成果を応用し、三重項対消滅を利用したアップコンバージョンのみではなく、シングレットフィッションにも成功している。これらの成果は、当初の予定を上回るものであり、該当領域の提案する複合励起により有機分子‐量子ドット複合系が様々な波長の光を自由自在に変換する優れた材料となることを示している。
平成30年度は、引き続き三重項アクセプター修飾量子ドットにおけるエネルギー移動過程の調査を行い、機構の詳細を明らかにすると同時に更なる高効率化を目指す。エネルギー移動過程を時間分解EPRにより調査することにより、量子ドットのスピン状態を明らかにする。半導体のスピン状態は未だに解明されていないため、有機分子‐量子ドット複合系を用いてスピン状態の解明が可能となれば非常に大きなインパクトになる。また、プラズモニクス材料との複合化による効率向上も同時に試みる予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件)
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