研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
17H05258
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齊藤 尚平 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30580071)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光応答液晶 / 光機能分子 / 液晶 / 超高速ダイナミクス / 励起状態芳香族性 / 時間分解電子線回折 / 一重項分裂 / FLAP |
研究実績の概要 |
これまでに我々は、独自のフレキシブル光応答分子であるFLAP分子シリーズをプラットフォームとして、光で剥がせる液晶接着材料、エポキシ樹脂の硬化過程を可視化できる粘度プローブ分子、高分子材料にかかる応力集中をナノスケールで理解できる張力プローブ分子など、FLAPの幅広い応用を示してきた。さらに今回、このFLAPを用いて過去にない現象の観測や分子機能の創出に成功した。具体的には、主に以下の実績を挙げることができる。 (1)光応答液晶の高速な構造変化を直接的に構造解析することに成功した。実験と理論の両面から相補的にデータ解析を行うことで、初めて光応答液晶の構造解析を実践することができた。構造がわからなければ機能材料の性能を向上させるための設計指針は得られない。本研究の構造解析手法は将来の光機能材料の設計に活かすことができ、今後は液晶に限らず光に応答する高分子材料やゲル、生体組織などの構造解析へと応用展開が期待できる。 (2)独自の光機能分子シリーズFLAPは、中央の柔軟部位が同一の構造(共役8員環)であっても、両腕の化学構造に応じて励起状態における挙動が全く異なることを示した。特に、パイ共役拡張型のアセン2量体構造をもつFLAPは、超高速、高効率で溶液中シングレットフィッション(一重項分裂)を示すことを明らかにした。シングレットフィッションは、太陽電池効率を飛躍的に高める可能性を秘めた光物理現象であり、近年世界的に注目されているが、今回のFLAPのように羽ばたく分子運動を示す系における報告はなかった。シングレットフィッションの速さや効率と、分子構造および分子運動との関係性については未だに明らかになっていない部分が多く、今回の結果はその関係性を紐解く上で重要な知見を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要(1)は当初の計画通り順調に進行し、一流国際化学雑誌への掲載、共同研究機関を含む4大学からのプレスリリース、オープンアクセスビデオジャーナルへの掲載など、広く研究の意義と成果について公開することができた。 研究実績の概要(2)は、当初は予想していなかったものの、分子光化学に関する普遍的で意義深い知見が得られ、これに関しても研究の価値が認められ、一流国際化学雑誌への掲載が決定した。 さらに、今後の研究方針に示すとおり、さらなる研究の飛躍を期待させる予備的なデータが得られていることから、当初の計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在新たに、FLAPが結晶相転移に伴って本来不安定な構造へと変化する現象を見出しており、メカノフォア(力に応答して化学的な構造変化を示す分子骨格)の新たな活性化手法を発見したという切り口で一流国際化学雑誌に採択されつつある。さらに、FLAPをメカノフォアとしてポリウレタンの主鎖と架橋点にそれぞれ導入し、レシオメトリック蛍光スペクトル解析を用いることで、延伸時のポリウレタンにかかる応力は主鎖よりも架橋点に集中していることが明らかになるなど、すでにさらなる研究の飛躍を期待させる予備的なデータが得られている。将来的には、材料や生体組織にかかる応力を分子レベルで理解し、さらには高い時空間分解能で応力分布を映像化することを目指す。FLAPを用いた応力イメージングが可能になれば、従来材料よりも強靭な材料を設計するための化学構造が提案できるようになったり、メカノバイオロジーに起因するとされる疾病のメカニズムを解明する手がかりとなったりすることが期待される。
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