研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
17H05261
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森 直 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (70311769)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エネルギー移動 / フォトンアップコンバージョン / キラリティー / トロイダル相互作用 / 三重項三重項対消滅 / ジフェニルアントラセン / プロペラ構造 / ヘキサアリールベンゼン |
研究実績の概要 |
本研究では、三重項三重項対消滅を利用したフォトンアップコンバージョンの効率化における新しい分子設計指針を提唱することが目的である。具体的には、ヘキサアリールベンゼンの特異なトロイダル相互作用に着目し、プロペラ状の形状の羽にあたる位置に、ジフェニルアントラセン骨格を導入することで、効率的なエネルギー移動、エネルギーマイグレーションを誘起し、三重項励起状態の高寿命化、効率的なアップコンバージョンを達成することが可能かどうか実証することが課題となる。本年は、当初目的としたジフェニルアントラセンを6つ導入したヘキサアリールベンゼン誘導体の合成を試みた。当初、6つのジフェニルアントラセンを直接導入することを検討したが、生成を確認するに至らなかった。検討の結果、遷移金属を用いるカップリング反応を用いた一般的な合成法を確立するに至った。また、キラルなヘキサアリールベンゼンのプロペラキラリティーに関しては、本の執筆と編集(シュプリンガー社より出版予定)、関連総説の執筆などへと発展したほか、発光性の誘導体においてその成果を論文として報告したところ、新聞報道され注目を集めた。関連する成果などは合わせて15の論文として発表することができた。成果は、国内外の学会等でも発表し、積極的な広報活動にも努めた。目的化合物が難溶性であったため詳細な検討には至っていないが、初期的な検討により、期待通り高いアップコンバージョンが観測された。より溶解性の高い誘導体へと展開することで、目的とする高効率フォトンアップコンバージョン系の構築が可能になるものと期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、目的とするジフェニルアントラセン骨格を導入したヘキサアリールベンゼン誘導体の一般的な合成法を確立するに至った。この化合物の物性については、まだ公表できる段になっていないが、関連化合物の物性について16報を数える論文として成果発表することができた。また、キラルなヘキサアリールベンゼンのプロペラキラリティーに関しては、本の執筆と編集(シュプリンガー社より出版予定)、関連総説の執筆などへと発展したほか、発光性の誘導体において、新聞報道されるなど十分な成果が得られたものと自負している。一方で、目的化合物が難溶性であることが判明し、このままでは詳細な検討が難しいことも明らかとなり、新たな課題として浮上した。なお、得られた化合物の初期的な物性検討を進めたところ、期待通り高いアップコンバージョン効率が担保できていることが示された。現在、より溶解性の高い誘導体などの検討を進めており、残り一年で解決できるものと期待している。以上のような観点から、研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、ヘキサアリールベンゼンを基本骨格とし、三重項三重項対消滅型フォトンアップコンバージョンの高効率化の実証実験を行うことを目的としている。ヘキサアリールベンゼンのプロペラ状クロモファー(アリール基)間の電子相関、励起状態エネルギーの非局在化の制御、励起状態寿命、立体的要因など様々な支配因子を、複合的、協調的に制御することで、高効率のフォトンアップコンバージョンが可能となるが、その制御指針は明らかとなっていない。 今年度は、ヘキサアリールベンゼンのアリール基として、ジフェニルアントラセンを導入した誘導体を設計し、その一般的な合成法を確立するに至った。反応の収率は良好であったが、生成物が難溶性であり、その精製が困難ということが明らかとなった。なお、得られた化合物の初期的な物性検討を進めたところ、期待通り高いアップコンバージョン効率が担保できていることが示されたため、翌年度は、ヘキシル基などを導入した誘導体へと展開し、溶解度の問題を解決するとともに、関連の化合物の精製法を確立し、本格的な光物理過程の測定を完成する予定としている。また、理論計算による構造予測とプロペラダイナミズム、環状トポロジー、トロイダル効果の検証なども合わせ検討する。
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