研究領域 | 高次複合光応答分子システムの開拓と学理の構築 |
研究課題/領域番号 |
17H05269
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
深港 豪 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (80380583)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フォトクロミズム / 蛍光スイッチング / ナノ粒子 / 非線形応答 / マルチカラー |
研究実績の概要 |
本研究では、応募者がこれまでに開発してきた蛍光性フォトクロミックナノ粒子において見出された非線形蛍光スイッチング現象の極限的な高効率化を目指す。 そのために、(1)非線形蛍光消光効率に対するクエンチャーユニットの光開環反応量子収率依存性を明らかにし、(2)複数の蛍光ユニットを分子内に有する蛍光スイッチング分子のナノ粒子、および(3)蛍光性フォトクロミックナノ結晶の開発に取り組む。これらのアプローチにより、非線形蛍光消光効率が10000 : 1を超えるような超高感度な非線形蛍光スイッチング挙動を示す蛍光スイッチング分子システムの創出をめざす。 これまでに、分子構造は類似していながら光開環反応量子収率が大きく異なる分子をいくつか合成し、そのナノ粒子の蛍光スイッチング特性について評価を行った結果、光開環反応量子収率の大きな分子では明瞭な非線形蛍光消光挙動が観測されないことを見出している。また、いくつかの分子内に複数の蛍光ユニットを有する蛍光スイッチング分子の合成にも成功しており、現在、それらの分子のナノ粒子状態における蛍光スイッチング挙動について詳細な検討を進めている。さらに、分子構造を最適化することで結晶性を示し、単結晶状態においても高い蛍光特性と優れた蛍光スイッチング特性を有する蛍光スイッチング分子の開発にも成功した。通常、単結晶状態における光反応は表面近傍でしか起こらないため、フォトクロミック反応に伴う蛍光スイッチングのコントラストは高くならないが、本研究で開発した分子の単結晶ではわずかな光照射により蛍光強度がほぼ完全に消失する高コントラストな蛍光スイッチング挙動が確認された。現在、この挙動に対する詳細な評価を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したように、これまでに当初の計画で予定していた分子の設計・合成をすべて終えており、現在、それらの分子から作製された蛍光性フォトクロミックナノ粒子のフォトクロミック特性および蛍光スイッチング特性の詳細な評価を進めている段階にある。また、最も困難と予想していた結晶性と高い蛍光スイッチング特性を併せ持つ分子の開発にも、分子構造を最適化することで成功し、単結晶状態における高コントラストな蛍光スイッチング挙動を確認することができている。現在、これらの分子のフォトクロミック特性と蛍光スイッチング特性をナノ粒子や単結晶の状態で評価しており、非線形蛍光消光挙動に及ぼす光開環反応量子収率や分子配向の影響について検討を進めている。その結果に基づき、さらに高効率な非線形蛍光スイッチング挙動を示す蛍光性フォトクロミック分子の開発を進めていくことが可能であると期待される。 以上のことから、現在までの研究の進捗はおおむね順調(もしくはそれ以上)に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究で得られた結果に基づき、本年度は結晶状態におけるフォトクロミズムに伴う蛍光スイッチング挙動の詳細な評価に第一に取り組む。結晶中における蛍光消光効率を詳細に測定し、非線形蛍光スイッチング挙動に対する評価を行う。それと同時に、その単結晶のナノ粒子化を試み、結晶状態を保ったままナノ粒子化させる方法を探索する。得られるナノ粒子の結晶性と蛍光特性に対する評価を行い、非線形蛍光消光に対するエネルギーマイグレーション機構の寄与の有無を検討する。もし仮に、高い蛍光特性や結晶性(もしくはその両方)が得られない場合、この蛍光スイッチング分子を蛍光色素のナノ結晶中に少量ドープした混合ナノ結晶の作製や、レーザーアブレーションなどによるナノ結晶作成など、ナノ粒子の作製方法の再検討にも取り組む。これらの実験の際には、領域内のメンバーだけでなく、これまでに国際的な共同研究の実績があるフランスの高等師範学校カシャン校(ENS Cachan)の中谷圭太郎教授・Remi Metivier博士のグループやリール第一大学のMichel Sliwa博士のグループとの共同研究も検討する。 以上の取り組みにより、本研究の目的である非線形蛍光消光効率が10000 : 1を超える超高感度な非線形蛍光スイッチング挙動を示す蛍光スイッチング分子システムの創出をめざす。比較的早い段階で最適な蛍光スイッチング分子が得られた場合、超解像蛍光イメージングやマルチカラースイッチングなど様々な応用展開を試みる。
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