次世代の生体イメージングや超解像イメージングへの応用に要求される蛍光スイッチング特性を満足する蛍光スイッチング分子材料の開発を目標に、新しい蛍光性フォトクロミック分子の開発に取り組んでいる。これまでの研究で、わずか数%の光反応で系中の蛍光を完全にON-OFFスイッチングできる超高効率な蛍光スイッチング特性を示す蛍光性フォトクロミックナノ粒子の開発や光により選択的かつ高いコントラストで蛍光色を自在に変化できる多色蛍光スイッチングシステムの開発にも成功している。 本年度の研究では、非線形蛍光スイッチング効率をさらに向上させるために、結晶性を有する蛍光性ジアリールエテンの設計および合成を試み、その分子のナノ粒子および単結晶状態における蛍光スイッチング挙動を検討した。その結果、フォトクロミック分子であるジアリールエテンと蛍光色素を連結した分子をアセトンから再結晶することで蛍光性のフォトクロミック単結晶を作製することに成功した。単結晶X線構造解析の結果、ジアリールエテンユニットは単結晶中で光反応可能なアンチパラレル型に固定されていることが認められた。実際に、その単結晶は極大波長502 nmの強い青緑色の蛍光(Φf= 0.23)を示し、UV光を照射すると、蛍光は急速に消光し、蛍光量子収率は<0.002まで減少した。また、可視光の照射により、蛍光強度は完全に元の状態に回復した。通常、バルク結晶相において、光変換率は10%未満に制限される。それにもかかわらず、今回得られた単結晶はバルク結晶相においてさえ優れた蛍光のON-OFFスイッチングを示すことが明らかとなった。この結果は、効率的な分子間のFRETに由来する非線形蛍光消光が単結晶で起こることを示すものであり、超高効率な非線形蛍光スイッチング分子システムの新しい可能性を明らかとした。
|