有機薄膜や分子集合体内での励起子とキャリア電荷に関する生成・移動の制御はエレクトロニクス・光エネルギー変換分野で非常に重要な課題である。本研究では分子集合体における一重項分裂(Singlet Fission: SF)の発現と逐次反応への展開をめざし、ペンタセンやテトラセン等のアセン系分子を用いた二量体や有機-無機複合材料の合成と物性評価に取り組んだ。まず、フェニルおよびビフェニルをリンカーとする各種のペンタセン二量体では、色素間の相互作用の段階的な制御に伴う量論的SFと励起三重項状態の長寿命化に成功した。特に、時間分解ESR測定では、相関のある三重項対(TT)に対応する五重項状態が独立した三重項対(T + T)の生成に関与することを速度論的に明らかにした。環状三量体のペンタセンナノチューブでは、環状構造として初のSF観測に成功した。 次に、有機無機複合体への展開として、ペンタセン修飾アルカンチオール単分子膜 (SAMs)で保護された金ナノクラスターではペンタセンの励起一重項状態から金表面への迅速なエネルギー移動を抑え、ΦT = 172%の三重項量子収率で金属表面上でのSFの観測は既に報告している。この結果を踏まえて、ペンタセンとペリレンジイミド (PDI)の混合SAMsでは単分子膜であるため2つの色素の被覆率を系統的に変化させることができ、色素濃度比に依存した励起ダイナミクス制御(SF、電子移動およびエキシマー)を明らかにした。
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