公募研究
分子結晶中の励起状態分子の研究では、分子間相互作用の強さに応じた計算手法が必要である。本研究では、分子間相互作用を無視できる系から二分子にまたがった新たな電子状態を伴う系まで広く対象として、方法論の開発や実験との共同研究を行ってきた。本年度の成果として、まず3つの異なる置換基を持つホスフィン分子PR1R2R3の励起状態におけるキラル反転(傘反転)の実験を対象に、計算から励起状態によってはほとんどエネルギー障壁が無くなることを示した。また一般性があることも示すために、PH3とPMe3でも同様の振る舞いが見られることを示し論文として報告した。これに加えて、光照射によって発光増強を示す金イソシアニド錯体の結晶構造および光物理特性の解明のために、粉末X線回折パターンから予測された構造に対して、金錯体二分子の励起状態計算を行い、吸収波長の変化をサポートする結果を得た。一方で、多結晶を示す金錯体の励起状態計算では、ある構造ではAu-Au間にまたがる軌道がLUMOに見られるが、このLUMOに遷移したS1状態での構造最適化を行うと、DFT法では二分子は解離し、DFT-D3法ではπ-π相互作用が強くAu-Au間には結合がない構造が得られた。高精度量子化学計算手法のCC2法を用いたところ、Au-Au間の結合は見られたが、Au-C間の結合も生成した。これらの計算において、実験結果はまだ再現できていない。その原因として、周囲の分子を無視していることが考えられる。計算コストを考えるとDFT-D3法が望ましいが、D3パラメータの金錯体を記述できるようにする必要がある。今後は、CC2計算の結果を参考にD3パラメータを調整し、周囲の分子を古典的に扱い、電荷移動状態も記述可能なLC-DFT-D3/MM法を開発して、多彩な分子間相互作用を持つソフトクリスタルの励起状態の学理を解明していく。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (2件)
Nature Nanotechnology
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