研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
18H04498
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井口 弘章 東北大学, 理学研究科, 助教 (30709100)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ソフトクリスタル / 分子性導体 / 多孔性配位高分子 / 一次元電子系 / 分子吸脱着 |
研究実績の概要 |
本研究では、多孔性配位高分子 (MOF) と分子性導体を融合することで、両者の特長を併せ持つ多孔性分子導体 (PMC) を開発し、分子吸脱着や機械的刺激によって、電子状態と電子物性を劇的に変換可能な導電性ソフトクリスタルの創製を目指した。本年度の研究実績は以下の通りである。 (1)様々な配位子を用いたPMCの合成と物性解析 PMCを合成するためには配位子間にπ積層カラム構造を構築する必要がある。そこで、大きなπ共役平面を有するナフタレンジイミド (NDI) 系配位子を金属イオン存在下で定電流電解還元することで、PMCの合成を行った。まず、Cdイオンと組み合わせて得られたPMC-1について、単結晶構造解析や元素分析等を用いて構造や組成を詳細に検討した。その結果、NDI部位の平均電荷は-0.7程度で、伝導度は半導体的挙動を示すことが明らかとなった。一方、Znイオンとの組み合わせで得られたPMCは、平均電荷は-0.67であるが、結晶構造には明確な電荷秩序が表れており、PMC-1よりやや伝導性が低い半導体となることが明らかとなった。また、これらに加えて二次元、三次元配位高分子からなるPMCの合成にも成功した。NDI系以外の配位子の合成も行っており、今後、新しいPMCの開発を進める予定である。 (2)PMCへの弱い刺激による構造・電子状態・電子物性のスイッチング PMC-1のナノ細孔中のN,N-dimetylacetamide (DMA) 分子の脱離を弱い刺激として、構造や物性のスイッチングを試みた。放射光の高強度X線を用いた測定から、DMAの脱離により大きな構造変化が起こっていることが明らかとなった。また、この構造変化により伝導パスが変化し、電気伝導度が一万倍も上昇することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で行う3つの課題のうち、本年度は、【課題1】配位子の酸化還元をトリガーとしたPMC の系統的合成、【課題2】PMC への弱い刺激による構造・電子状態・電子物性のスイッチングに取り組み、PMC合成法の確立と構造物性変化の解明を目指した。 これまでにナフタレンジイミド(NDI)骨格を有するPMCを10種類以上合成し、BTBT系についても電荷キャリアは存在しないものの、多孔性構造の構築に成功したことから、これらの配位子系についてはPMC合成法をほぼ確立できたと考えている。今後はさらに他の配位子系へと展開していく必要がある。また、PMC-1の構造変化は当初は研究室の粉末X線回折でのみ議論していたが、それだけでは解析に限界があったため、共同研究により放射光を用いたEXAFS及び高解像度の粉末X線回折パターンを得るに至った。この解析により、当初予想していたよりもかなり大きな構造変化が起こり、π共役分子同士の重なりが二次元的になっている可能性が示唆された。これは、PMCが予想以上に柔らかい構造体であることを示しており、このことは今後の分子設計、物性変換において大きな知見となった。以上のことから、今年度の進捗状況は当初の計画上に進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、【課題1】配位子の酸化還元をトリガーとしたPMC の系統的合成、【課題2】PMC への弱い刺激による構造・電子状態・電子物性のスイッチング、【課題3】PMC 空孔中へのドーパント挿入による化学ドーピングの精密制御、の3つの課題に取り組むが、本年度は、新たに課題3も開始する。 課題1では、分子性導体となりうるπ共役骨格を有する配位子として、これまでのナフタレンジイミド誘導体に加えて、ジチオレンやテトラチアフルバレン(TTF)系配位子を種々合成する。これらを各種金属イオンまたは金属クラスター錯体と混合し、電解法により酸化(還元)することにより、PMC を合成する。 課題2については、細孔中の溶媒脱離による構造変化や電気伝導度の大きな上昇についての解析を進めていきたい。特に、電子状態という点ではまだまだ不明瞭な点が多かったため、スペクトル測定や計算化学的手法を用いて、PMCの電子状態についても更なる解明をしていく予定である。また、結晶をすりつぶすことによる物性変化についても調べる。最終的には、これらの弱い刺激によって、金属-絶縁体転移など、一次元電子系特有の急激な電子状態・電子物性変化を誘起させる。 課題3においては、臭素やテトラシアノキノジメタン(TCNQ)などの酸化還元活性な分子の溶液を調整し、PMCを浸漬させることで細孔中にこれらの分子を導入し、化学ドーピングを行う。このとき、濃度や浸漬時間を調節することで、ドーピング量の調整を行う。これらの実験によって得られたPMC の構造や電子状態、電子物性は、X 線構造解析、吸収スペクトル、伝導度測定等を行って明らかにするが、特に変化の過程については領域内共同研究を積極的に展開し、解明していきたい。
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