研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
18H04499
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
西堀 英治 筑波大学, 数理物質系, 教授 (10293672)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 放射光 / その場観察 / 粉末 / 単結晶 / ベイポクロミズム |
研究実績の概要 |
本研究では、微弱な外部刺激に応答し特性変化する「ソフトクリスタル」の結晶構造の外部刺激に伴う変化を、放射光を利用した回折法によるその場観察により解明することを目的とする。本年度は以下の研究を実施した。1. Mn錯体のベイポクロミズムにおける構造変化の放射光その場観察 A02班末延先生のグループとのMn錯体のベイポクロミズムに関する共同研究を開始した。当時、SPring-8 の粉末回折ビームラインBL02B2にて立ち上げ中だった溶媒蒸気下のその場観察装置を利用したデータ測定を行った。実験条件を最適化して測定を重ねたところ、この系では表面が溶解し再結晶化の形で溶媒が吸着されることがわかってきた。2. 応力発光物質の単結晶構造解析 A03班徐超男先生と応力発光物質の単結晶構造解析の共同研究を開始した。単結晶X線回折データを測定し、R=2%で構造を決定した。今後、高温領域の構造の温度依存性を調べていく。3. ジシラン化合物の粉末未知構造決定 A01班山野井先生とジシラン化合物の未知構造決定の研究を開始した。4. ベイポクロミズムを示すPt錯体の放射光粉末回折 A01班塩塚先生とベイポクロミズムを示すPt錯体の放射光粉末回折の共同研究を開始した。構造を順次決定していくために、真空引きしたサンプル、大気中のサンプル、蒸気にさらしたサンプルなど複数のサンプルを事前準備し、データ測定を開始した。5. 相転移を示すジシラン化合物の低温相の構造決定 A01班山野井先生と低温で相転移を示すジシラン化合物の構造決定の研究を開始し、構造決定に成功した。6. NDI-pyをベースとした多孔性物質の構造研究 A01班井口先生とNDI-pyをベースとした多孔性物質の放射光単結晶・粉末X線回折の共同研究を開始し、データの測定に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5月の公開シンポジウムに参加すると、A02計画班の末延先生より声をかけていただき、最初の共同研究がスタートした。まだ立ち上げ段階だったSPring-8の装置でベイポクロミズムを示すMn錯体のその場観察を6月に行った。準備が不十分でうまく行かなかったが、この結果をSPring-8の河口博士にフィードバックすることで溶媒吸着装置の立ち上げが想定よりかなり早く進んだ。現在では、溶媒蒸気の圧力をその到達速度も含めて制御し、試料に吸着することが可能となっている。試料を真空にする到達速度も可変であり、溶媒蒸気とともに大気や乾燥ガスを流すこともできるようになった。“蒸気にさらす”を制御しつつ放射光実験が可能な環境が整ったと言える。立ち上がった装置を用いて、A02班阪大末延先生、A01班名工大塩塚先生との共同研究を進めている。研究を進めてみてわかったことは、吸着条件を制御できるようになると、実験条件を正確に決めて置いたうえで実験しないとパラメータの変化で再現性が取れないという問題である。大気と混ぜて吸着させる際に、たまたま湿気が高かったりすると試料が水を吸着したりすることも見られた。この問題を解決すべく、実験室での装置開発を進めている。SPring-8の装置のデッドコピーである。2019年の2月末にはSPring-8の河口博士に筑波大に来ていただいて制御ソフトや各パーツ制御の確認をしてもらった。物品の発注や組み立てもほとんど終了しており、現在は試料部固定用の冶具作成などを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
ほぼ終了に近づいている実験室の装置開発を今年度の6月頃までに終了させる。それとともに現在進めている1. Mn錯体のベイポクロミズムにおける構造変化の放射光その場観察 2. 応力発光物質の単結晶構造解析 3. ジシラン化合物の粉末未知構造決定 4. ベイポクロミズムを示すPt錯体の放射光粉末回折 5. 相転移を示すジシラン化合物の低温相の構造決定 6. NDI-pyをベースとした多孔性物質の構造研究 については、データ解析を終了させて成果を発表していく。さらに複数の共同研究の相談をうけているためそれらも積極的に進める。尚、課題採択時点で確定していなかったSPring-8のマシンタイムについては、粉末回折ビームラインでパートナーユーザー課題、単結晶X線回折ビームラインで長期利用課題に採択されたため、本研究遂行に十分な時間が確保された。少しずつではあるが、成果も上がり始めたため、領域内の研究者からの共同研究依頼も増加傾向にある。開発した装置を使った新しい成果創成と合わせて、これらの研究も積極的に進めていく。
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