研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
18H04503
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木下 卓巳 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (60635168)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 金属ハライドペロブスカイト / キャリア輸送 / 光電子分光 / 近赤外光電変換 / 鉛フリー材料 / 太陽電池 |
研究実績の概要 |
本申請課題は、これまでの申請者の研究で浮上した鉛ハライドペロブスカイトのキャリア輸送特性や光物性に関する課題を明らかにするとともに、分光学的解析により新たな光キャリア輸送や機能性を実現できる材料の開拓を目指すものである。今年度はI.金属ハライドペロブスカイトの時間分解光電子分光による光キャリア輸送特性の評価とII.新たな光機能性材料の開発と光キャリア輸送の発現について検討を行った。以下に本研究成果の概要を示す。 I.金属ハライドペロブスカイトの時間分解光電子分光による光キャリア輸送特性の評価 (1) ペロブスカイト薄膜の形成は大きく気相と液相での結晶成長に分けられるが、これまでの物性評価には大半が気相成長によるものが使われてきた。本研究では太陽電池デバイスで用いられる溶液プロセスによる結晶薄膜の評価を行うべく、あらたな製膜プロセスと測定手法を検討し、光キャリア特性を観測することができた。(2)これまでに金属ハライドペロブスカイトのキャリア輸送は数多くの実験により評価されてきているが、特異的な物質の構造変化に起因した特性の違いを示すことが多い。本研究では新たな分析手法によりそれらを定量的に評価する事を目指し、各種測定条件の検討が行われた。 II.新たな光機能性材料の開発と光キャリア輸送の発現 (1)鉛ハライドペロブスカイトは薄膜太陽電池へと適応することによって非常に高い性能を示すことで知られているが一方で鉛の有毒性が問題となっている。本研究ではスズを用いた擬ペロブスカイト構造の鉛フリー有機無機ハイブリッド材料を溶液プロセスで合成し、色素増感太陽電池へと適応した。広帯域な波長範囲で光吸収を示すRu錯体増感色素を用いることによって1um帯の近赤外光で発電する全固体光電変換デバイスの実現に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画において今年度は、ペロブスカイトの光キャリア特性の解析及び新たな光機能性材料の開発を行う予定であり、一部では予定よりも早く進められた課題もあるなど概ね計画以上の成果が得られた。 光キャリア特性の解析については従来の研究とは異なる手法を用いた解析を行うため、研究期間内は各種測定条件出しがほとんどを占めた。一方、光キャリアのシグナルを捉えることができたため、今後様々な金属ハライドペロブスカイト薄膜についての調査が行われると考えられる。一方、新たな光機能性材料の開発については当初予定では各種イオンドーピングなどが予定されていたが、Bサイトカチオンである鉛に着目した金属置換を行った。新たに溶液プロセスで合成したスズを用いた有機無機ハイブリッドペロブスカイトは光キャリア輸送性能を示した。研究の進捗が予定よりも早かったため、当初予定では翌年度に実施予定であった太陽電池デバイスへの応用を行い、光電変換を示すことが明らかになった。また近赤外の増感色素と組み合わせることによって、可視領域から1um帯まで発電する全固体型太陽電池を実現できた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の目標である、①金属ハライドペロブスカイトのキャリア輸送特性の評価と②新たな光機能性材料の開発については,概ね計画の通り進められている。今後は、各種の金属ハライドペロブスカイトを用い、光キャリア輸送特性の評価を行うと同時に、イオンドーピングや金属置換などにより、新たな光機能の発現を目指す予定である。今年度実施予定であるデバイスの作成については既に目標が達成されているため、デバイスの最適化による高性能化といった、より高い目標を設定し研究を進めて行く予定である。
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