研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
18H04508
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
伊藤 傑 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (80724418)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ソフトクリスタル / メカノクロミック発光 / 有機蛍光色素 / 多色発光 / 二成分系色素 / トライボロジー |
研究実績の概要 |
「こする」などの機械的刺激に応答して蛍光やりん光の発光色が変化する「メカノクロミック発光」は、ソフトクリスタルが示す代表的な外部刺激応答特性の一つである。本研究では、機械的刺激に応答して多色間で発光色が変化する新規有機ソフトクリスタル群の創製、及び、機械的刺激に対する応答性を定量的に評価する手法の確立を通して、メカノクロミック発光性有機ソフトクリスタルの構造開拓と機構解明を行うことを目的としている。 平成30年度の研究では、まず、新規に合成したジピレニルビチオフェン誘導体とN,N’-ジメチルキナクリドンからなる二成分系ソフトクリスタルが示す三色間メカノクロミック発光について、詳細な解析を行った。粉末X線回折、示差走査熱量分析、固体13C NMRスペクトルの測定から、ジピレニルビチオフェン誘導体が結晶状態と二種類の非晶質状態との間で相転移することが発光色変化の要因であることを明らかとした。次に、多彩なメカノクロミック発光特性を示す種々のイミダゾリルベンゾチアジアゾール誘導体の創製にも成功した。各種誘導体の単結晶X線構造解析、時間依存密度関数法による量子化学計算、領域内共同研究による1粒子蛍光観測等を通して、置換基の電子効果ではなく立体効果によって、機械的刺激を加えた際に発光波長が変化する方向が決まることを明らかとした。これらの知見は、新規のメカノクロミック発光性ソフトクリスタルを創製する上で有用となる設計指針を与える。 一方、各種ソフトクリスタルの機械的刺激に対する応答性の違いを定量的に評価することを目的として、粉末試料に加える荷重と回転速度を制御した上で発光スペクトルをリアルタイムで観測することのできる自動回転装置を作製した。本装置を用いることで、イミダゾリルベンゾチアジアゾール誘導体の機械的刺激に対する応答性を定量的に評価することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、二成分系有機ソフトクリスタルによる三色間メカノクロミック発光の機構を明らかとしただけでなく、新規に合成した各種イミダゾリルベンゾチアジアゾール誘導体の多彩なメカノクロミック発光特性を解析することで、機械的刺激に応答した発光波長の変化方向に関して興味ある知見を得ることができた。また、自作の自動回転装置を用いた機械的刺激に対する応答性の定量解析では、当初の計画とは異なる解析手法を考案・適用することで、定量評価法を確立することに成功した。さらに、複数の領域内共同研究を促進することで、当初の計画では想定していなかった新たな知見を得ることにも成功している。以上のように、本研究課題は当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、当初の計画通り、二成分系ソフトクリスタルについて種々の組み合わせを検討することで、幅広い波長範囲で多色間メカノクロミック発光を示すソフトクリスタルを見出す。また、平成30年度に得られた知見に基づき、多彩なメカノクロミック発光特性を示す新規ソフトクリスタルの創製にも取り組む。さらに、領域内共同研究により、種々のソフトクリスタルについて機械的刺激に対する応答性を定量的に評価することで、メカノクロミック挙動と機械的刺激に対する応答性との間に相関を見出す。
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