「こする」などの機械的な刺激を加えることで、光励起時の固体発光色が変化する「メカノクロミック発光」は、ソフトクリスタルが示す典型的な刺激応答特性の一つである。メカノクロミック発光性ソフトクリスタルは、多くの場合、機械的刺激により変化した発光色が加熱や有機溶媒の曝露によって元に戻る二色間の発光色変化を示す。平成30年度の研究では、発光色が機械的刺激の強さに応じて二段階で変化するソフトクリスタルや、三色間の発光色変化を実現する二成分系ソフトクリスタルの創製に成功した。また、機械的刺激を定量的に付与可能な装置を開発し、機械的刺激応答性を定量解析する手法の確立にも取り組んだ。 令和元年度の研究では、まず、望みとするメカノクロミック発光特性をもったソフトクリスタルの合理的な創製に挑戦し、ピレニルチオフェン誘導体とキナクリドン誘導体からなる二成分系ソフトクリスタルにおいて、機械的刺激を加えた際の発光極大波長の変化量と機械的刺激付与後の回復挙動を制御することで、前例の無い高コントラストな自己回復性MCLを実現することに成功した。また、二種類の刺激に段階的かつ可逆的に応答するソフトクリスタルは極めて限られていたが、ピリジル基を有するソフトクリスタルと安息香酸誘導体からなる二成分系において、酸に応答するハロクロミック発光とメカノクロミック発光を逐次的に連結することで、加熱温度の違いに応答する二段階の発光色変化を実現した。さらに、トリフェニルイミダゾール誘導体が形成する擬多形結晶のソフトクリスタルが、機械的刺激に対して顕著に異なる応答性を示すことを見出した。一方、領域内共同研究では、トリフェニルイミダゾール誘導体がメカノクロミック発光特性を発現する要因の解明に取り組んだ。また、各種ソフトクリスタルの機械的刺激応答性を評価するとともに、機械的刺激応答挙動の違いに基づき分類することに成功した。
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