研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
18H04511
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
酒田 陽子 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (70630630)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マクロサイクル / 自己集合 / イオン性結晶 |
研究実績の概要 |
蒸気などの弱いマクロ刺激で相転移を生じるソフトクリスタルの創製において、元々穴の空いた剛直な環状分子を弱い相互作用により連結した多孔性結晶の作成は有用なストラテジーとなり得る。本研究では、堅い骨格を持つ有機配位子と金属イオンの自己集合によりカチオン性金属錯体型マクロサイクル「メタロナノベルト」を合成し、これを様々な非共有結合性の相互作用で連結することで、蒸気などの外部刺激に対して応答しやすい内在性細孔を持つソフトクリスタルの創製を目的としている。平成30年度は、キレート型二座配位部位を持つ2,3,6,7-テトラアミノトリプチセンを配位子Lとして用い、Pd2+と自己集合させることにより剛直な自由回転ができないベルト状分子「メタロナノベルト」を効率的に合成することに成功した。また、このメタロナノベルトはテンプレートを除いても、各種有機溶媒中で安定であることが明らかとなり、ソフトクリスタル創製において基本となるビルディングブロックの構築およびその有用性を示すことができた。また、メタロナノベルトを多様なソフトクリスタル創製へと利用する上で、効率的な官能基化の手法を確立することは重要である。平成30年度は、より簡便なメタロナノベルトの官能基化の手法を確立するために、キノキサリン骨格形成を鍵とする、様々な官能基を有する屈曲型配位子の高効率合成を行った。さらにこれら配位子を用いて官能基化されたメタロナノベルトを効率的に形成することにも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、堅い骨格を持つ有機配位子と金属イオンの自己集合によりカチオン性金属錯体型マクロサイクル「メタロナノベルト」を合成し、これを様々な非共有結合性の相互作用で連結することで、蒸気などの外部刺激に対して応答しやすい内在性細孔を持つソフトクリスタルの創製を目的としている。金属配位結合を駆動力とした自己集合は高収率で環状分子を得る上で非常に有用な手法であるものの、これまでに報告されている自己集合型金属環状錯体は、単座配位子を構成要素とする例が多く、比較的サイズ変換に対する耐久性が低く扱いが難しかった。平成30年度は、サイズ変換に対してより安定なベルト状環状錯体の構築を目的とし、キレート型二座配位部位を持つ2,3,6,7-テトラアミノトリプチセンを配位子Lとして用い、Pd2+と自己集合させることにより剛直な自由回転ができないベルト状分子「メタロナノベルト」の合成を行った。実際にテンプレート自己集合により得られたメタロナノベルトはテンプレートであるピラーアレーン誘導体を除いても、アセトニトリルやメタノールなどの有機溶媒中で十分安定であることが明らかとなり、ソフトクリスタル創製において基本となるビルディングブロックの構築およびその有用性を示すことができた。また、メタロナノベルトを多様なソフトクリスタル創製へと利用する上で、効率的な官能基化の手法を確立することは重要である。平成30年度は、トリプチセンから二段階で合成可能なヘキサアミノトリプチセン(1)を共通の前駆体とし、多様な1,2-ジケトン類と反応することで、キノキサリン骨格形成を鍵とする様々な官能基を導入した屈曲型配位子を合成した。さらにこれら配位子を用いて官能基化されたメタロナノベルトを効率的に形成することにも成功した。以上のことから、研究はおおむね順調に進展したと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、ソフトクリスタル創製における重要なビルディングブロックとなるメタロナノベルトの合成法を確立した。また、共通の前駆体からのキノキサリン骨格形成を鍵とした、官能基化されたメタロナノベルトの効率的な構築手法も確立することができた。次年度は、メタロナノベルトを様々な非共有結合を用いて集積化することで、新たなソフトクリスタルの創製を目指す。まずは、カチオン性メタロナノベルトのカウンターアニオンを適切に選択することで、水素結合形成等を利用したイオン性結晶の形成を試みる。アニオンの脂溶性や水素結合アクセプター部位を変えることで、様々な結晶が得られると期待される。また、キノキサリン骨格形成を鍵とすることで、様々な官能基を導入することが可能になったため、積極的に新たな配位部位を導入し、段階的な金属配位結合形成によるソフトクリスタル創製も行う。具体的には、フェニレンジアミン部位と競合しないと考えらえる単座配位子であるピリジル基を導入した屈曲型配位子を合成し、錯形成挙動を調べる。ピリジル基がメタロナノベルトの形成を阻害しないことが明らかになった場合、メタロナノベルト状のピリジル基との段階的な錯形成による集積化を試みる。さらに、これまでの研究で、トリエチレングリコール鎖とファニレンジアミン錯体部位が特異な多点水素結合形成をすることを見出している。そのため、様々なトリエチレングリコール鎖を持つ分子との相互作用を利用することでもメタロナノベルトの集積化が期待できる。このように、本系独自の特徴を活かしたソフトクリスタル創製も試みる。
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