研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
18H04512
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
内橋 貴之 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (30326300)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高速原子間力顕微鏡 / 超分子ファイバー / ソフトクリスタル / ナノ動態 |
研究実績の概要 |
ソフトクリスタルは外部環境の変化や弱い機械刺激に応答して、光学特性や機械特性を柔軟に変化させる。直接刺激を受ける結晶表面での構造・物性変化とその表面伝播ダイナミクスを高時空間分解能で計測できれば、ソフトクリスタルの機能発現機序の解明に重要な知見を与えるに違いない。本研究課題では、高速AFMを用いて外部刺激に応答するソフトクリスタルの表面・物性構造のダイナミクスを高時空間分解能で可視化する基盤技術を確立し、ソフトクリスタルの機能創発の分子機構を明らかにする。本年度は以下の成果が得られた。 1. 超分子ナノファイバーの成長過程の直接可視化と分子操作:ポルフィリン分子誘導体ナノファイバーが成長する過程をリアルタイム観察することに成功した。ナノファイバーは伸縮を繰り返しながら成長していくことや、ファイバーのバンドル化によって成長が安定化することを見出した。さらに、AFM探針によってナノファイバーを分断し、その領域に異種分子を埋め込む局所分子操作にも成功した。 2. ハイドロゲル微粒子の温度応答挙動の評価:室温から40℃まで観察溶液の温度制御が可能な温度可変-高速AFMを開発し、固体基板に吸着したハイドロゲル微粒子の温度依存的な形態変化を可視化した。温度上昇とともにゲル微粒子が収縮し、ゲル微粒子内部に微細なドメイン構造が形成される様子を観察することに成功した。 3. 低分子ゲル化剤の固体基板上での自己組織化のダイナミクス計測:低分子ゲル化剤であるウレア誘導体(Urea-C13)のグラファイト基板上への吸着過程をを高速AFM観察した。吸着初期には単分子鎖が並んだシート構造を形成し、その後二層目以降では1次元のファイバー様結晶として成長する様子が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画通り、大気中での高速原子間力顕微鏡の観察技術はほぼ確立し、また、再現性良くAFM探針を形成することはできた。また、高速位相計測も高速ロックインアンプの導入により出来るようになった。これらにより、超分子ナノファイバーの成長過程や自己修復過程、高分子ポリマーの動態観察に成功したが、当初予定していたソフトクリスタル結晶の観察は試料の入手が目論見通り進まなかったことからやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はこれまで以上に領域内共同研究を積極的に行い、新たなソフトクリスタル試料の観察に取り組む。試料が入手でき次第、次の課題を実施する。 1. 外部環境(蒸気・温度)変化の反応計測: 高速AFM観察中に試料に蒸気を当てたり、温度を変えることで、生じるソフトクリスタル表面の構造および機械特性のダイナミクスを可視化する。高速AFMには蛍光観察が可能なCCDカメラが装備してあるので、外部環境で発光が変わる試料については光学観察で確認でき、外部刺激に対するマイクロメータースケールの光学応答とナノメータースケールの構造物性特性の変化を容易に結びつけることが出来る。この計測により外部刺激によるソフトクリスタルの応答とその時間発展の初期過程をナノスケールで調べる。 2. 局所力刺激への反応計測: 高速AFMのインタラクティブモードを利用して、ソフトクリスタル表面の構造をイメージングしながら任意のサイトあるいは領域に外力を印加する。機械刺激によって生じる表面構造および機械特性の変化とその表面伝搬過程を分子スケールで可視化する。また、インタラクティブモードと外部環境変化を組み合わせ、大きな外力により結晶に欠陥を生成し、外部環境の変化による構造物性ダイナミクスが局所欠陥によってどのように変化するかを計測する。これにより結晶の完全性と機能発現の関係を明らかにする。
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