研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
18H04513
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
榊 茂好 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 研究員 (20094013)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遷移金属錯体 / 分子性結晶 / 分子物性 / 電子状態計算 / 励起・発光スペクトル / 結晶効果 |
研究実績の概要 |
遷移金属錯体による分子性結晶の電子状態計算による理論的研究を行い、柔軟な結晶内における遷移金属錯体の反応過程、吸収・発光スペクトルの結晶相転移による変化、気体分子吸着などの分子論的理解を達成した。(1) 分子性結晶内での化学反応の理論的研究は、結晶内での遷移状態構造の最適化計算を行う必要があり、容易でない。我々は、Ru(II)-SO2錯体の結晶内異性化反応を取り上げ、我々が開発してきたQM/MM法を用いて、遷移状態を最適化し、そのエネルギー変化を求めることに成功した。異性体の相対安定性は気相中と溶液中とで大きく異なるが、溶液中と結晶内では相対安定性は同じであるが、活性障壁は溶液中と分子性結晶内とでは大きく異なる。中間体の安定性については結晶の効果は溶液の場合と類似しているが、遷移状態では溶液内と結晶内とで大きく異なることが示された。(2)金(I)錯体は単結晶から単結晶への相転移を容易に行うが、それとともに、発光スペクトルが変化する。QM/MM法を用いて、ある相での金(I)錯体は錯体間距離が長いため励起状態は配位子中心のπ-π*発光であるが、相転移すると錯体間距離が短くなり、その結果、金同士のd-d反結合性軌道から配位子のπ*軌道への励起状態が三重項最低エネルギー励起状態となる。この結果、発光スペクトルが変化する。2つの相の相対安定性には長距離静電相互作用が重要であることが示された。(3)Feをベースとする構造柔軟なMOFを取り上げて、二酸化炭素の吸着の理論的検討を行ったところ、二酸化炭素は15分子が同時に吸着すること、それがGate-openingの結果であること、そのため、S字状のLangmuir-Freundlich吸着等温線を示すことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、予定していたとおり、分子性結晶内での遷移金属錯体の反応過程の理論的検討を行い、論文として公表できた。また、機械的刺激により相転移を行う金(I)錯体の結晶を取り上げ、結晶相の相対安定性を計算したところ、実験結果と一致する計算結果を得た。結晶相の相対安定性をQM/MM電子状態計算で求めた例はほとんどなく、本研究が最初の報告例である。また、気体分子のMOFへの吸着に関して、吸着エンタルピーを実験結果と1 kcal/molも誤差で再現し、さらに、吸着等温線を電子状態理論計算から求めることができた。特に、Langmuir-Freundlich型の吸着等温線を再現し、その起源を明らかにできたことは、この分野では最初の報告である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、順調に研究を進めてきていることから、Periodic-QM/MM法を利用した電子状態理論計算法を適用し、柔軟な分子性結晶における興味深い実験結果の分子科学・物理化学的理解を継続する。具体的には、柔軟な分子性結晶内での遷移金属錯体の吸収・発光スペクトルが測定温度で変化する化学事象をQM/MM法による電子状態計算による解明、構造柔軟なMOFへの二酸化炭素やアセチレンの吸着挙動の分子論的解明を行う。なお、このMOFの理論研究においては、Periodic-QM/MM法と共に、Periodic-DFT計算を行い、構造を最適化し、重要な部分をクラスターモデルで近似し、高精度な電子状態計算を行うというHybrid計算法も適用する。
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