研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
18H04518
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
松本 有正 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (20633407)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | キラリティー / 単結晶ー単結晶相転移 / 円二色性 / 結晶キラリティー |
研究実績の概要 |
右手と左手の関係のように,ある物質がその鏡像体が重なり合わない性質はキラリティーと呼ばれ,分子のキラリティーによる薬理作用の差などのため,キラリティーの研究は鏡像異性体を作り分ける不斉合成,鏡像異性体を分割する不斉分割法など,天然物の全合成,とりわけ製薬合成などで重要な課題として研究がなされてきた。一方,近年キラリティーの概念は有機合成にとどまらず,キラルな分子が持つ物性の応用が注目を集めるようになってきている。 本研究は本来キラリティーを持たない分子が結晶向上中でキラリティーを発現するアキラル化合物のキラル結晶化現象に着目した研究であり,このキラル結晶化は不斉発現や不斉分割の新たな手法として近年注目を集めている研究分野である。本研究は申請者が見出した単結晶のアキラル相からキラル相への結晶相転移によるキラリティーの発現という新現象に基づき,そのメカニズム解明および一般性の検証を行うことで相転移を利用してキラル物性が変化するという新たなソフトクリスタルを創出する事を目的とする。 本年度の研究では,アキラルおよびキラルの両多形をもつベンゾフェノン誘導体についてその結晶化条件を精密に精査しアキラル結晶およびキラル結晶を再現性よく作り分ける事に成功した。またアキラルな結晶がキラル結晶の接触により,単結晶-単結晶相転移を起こし,アキラル結晶から対称性が崩れ,キラル結晶が生成することおよび接触したキラル結晶のキラリティーがアキラル結晶に伝搬することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度までの研究により,ベンゾフェノン誘導体のキラル結晶化およびキラル-アキラルの多形制御に関して,様々なベンゾフェノン誘導体同士を共結晶化させることにより結晶化の制御を行う事に成功している。 結晶多形に関する研究でしばしば直面する課題として,再現性よく準安定な結晶多形を得ることが困難であるという事が挙げられ,本研究でも大きな問題となっていた。しかしながらこの類似化合物の結晶を結晶核として添加する方法によりある程度多形の作り分けの再現性に成功しており,本研究を円滑に進行させる目処を立てることができた。 また結晶相転移で発生する結晶キラリティーの制御に関して,接触する結晶種により完全にコントロールする事に成功している。さらには外部のキラリティーを全く用いない結晶キラリティーの発現法として特定の結晶面からの相転移による発生する結晶キラリティーの制御もある程度可能であることを見出している。 キラル相転移を引き起こす他の有機結晶の探索についてはまだ思うような進展が見られなかった,次年度以降は他の化合物での同様なキラル相転移現象の探索の幅を広げていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により結晶相転移により発生する結晶キラリティーを接触させる結晶により制御可能であることを見出したほか,相転移を起こす面によってもある程度制御可能であることを示唆するデータが得られている。 次年度以降では,引き続きこのベンゾフェノン誘導体のアキラル-キラル多形転移について検討をすすめ,キラル-アキラル両多形の安定性の差の評価や置換基の差異による多形の発生の差異について,結晶構造の分子動力学的なシミュレーションもふまえてそのメカニズムの解明を行う。また発生する結晶キラリティーについてはより完全なコントロールを試みる。 またベンゾフェノン誘導体以外の基質についてもアキラル-キラル相転移が起こるか検討していく。具体的にはアキラルな化合物が形成するキラル結晶としてベンジル誘導体,テトラフェニルエチレン誘導体,ジフェニルスルフィド誘導体はアキラルで有りながらその多くがキラルな結晶構造をとることが判明している。ベンゾフェノンの結晶同様にこれらの結晶中でもベンゼン環のねじれによるキラリティーが生じており,準安定なアキラル相が存在することが期待できる。これらの結晶について多形の有無,相転移の有無を調べ結晶相転移によるキラリティーの発現,伝搬現象の一般性およびそのメカニズムの解明を進める。 さらに次年度以降はキラル相転移にともなうキラル光学特性の変化に着目してキラル材料としての応用の可能性を探る。キラル結晶化するアキラル化合物の中にはテトラフェニルエチレンなど固体状態で強い発光を持つ物がある。これらの化合物についてアキラル-キラル相転移が可能か検討する。また蛍光分子をこれまでの研究でアキラル-キラル相転移を起こす事が明らかになった結晶に添加し,その蛍光のキラル光学特性を測定し,円偏光特性が制御可能な有機結晶材料の開拓を目指す。
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