研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
18H04520
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大山 陽介 広島大学, 工学研究科, 教授 (60403581)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 蛍光性色素 / メカノフルオロクロミズム / ソフトクリスタル / 双極子モーメント / クラスレート / 水 |
研究実績の概要 |
1. D-π-A型蛍光性色素のメカノフルオロクロミズム(Mechanofluorochromism: MFC):D-π-A型蛍光性色素の結晶が磨砕⇔加熱によって色調だけでなく蛍光発光色をも可逆的に変化させることを見出し、本現象をMFCと名付けた。本MFC特性は磨砕前の結晶状態と磨砕後のアモルファス状態間での双極子間相互作用や分子間π-π相互作用の可逆的な変化に起因していることを明らかにし、MFC特性の発現には5 debye程度の双極子モーメントを有するD-π-A型の色素構造が必要であることを実証した。 2. 光誘起電子移動特性(PET)と凝集誘起発光特性(AIEE)を有する蛍光性水センサーの開発:新規に開発したPET特性とAIEE特性を有する色素が、有機溶媒中の微量水分領域(1 wt%以下)と高水分領域(60-70 wt%以上)の水を、それぞれPET抑制に伴う蛍光発光とAIEE発現に基づいて検出できる2波長蛍光発光性水センサーとして機能することを見出した。 3. 分子内電荷移動特性を有する比色性および蛍光性水センサーの開発:新規に開発した分子内電荷移動(ICT)特性を有するピリジン-ホウ素錯体YNI-2-BF3が、有機溶媒中の微量水分領域(~3 wt%)から中水分領域(3~40 wt%以上)の水を、それぞれ錯体解離によるYNI-2の形成とYNI-2の水分子との水素結合形成に基づいて検出できる比色性および蛍光発光性水センサーとして機能することを見出した。 4. β-カルボリン-ホウ素錯体を利用した蛍光性水センサーの開発:β-カルボリン-ホウ素錯体が、有機溶媒中の微量水分領域(~2 wt%)、中水分領域(2~40 wt%)および高水分領域(40wt%~80 wt%)において、光吸収・蛍光スペクトルが変化することから比色・蛍光発光性水センサーとして機能することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、分子配列・配向性を制御した新規なD-π-A型蛍光性色素を創製し、その固体光電子特性を自由に操ることで革新的なメカノフルオロクロミック色素を創製することに成功した。さらに、有機色素の新しい応用分野の開拓を目指して色素の新機能を発掘することに成功し、水分検出用蛍光性色素(蛍光性水センサー)の創製へと導いた。これまでの研究成果は、国際学会での発表と国際学術誌で公表しており、本研究課題は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を遂行するために、1) 分子配列・配向性や分子間相互作用を分子レベルで系統的に変化させてメカノフルオロクロミズム(MFC)特性に及ぼす影響を調べるのに適う新規な一連のD-π-A型蛍光性色素を分子設計・合成する(摩砕前後の固体光吸収・発光特性、示差熱量分析、粉末X線解析、偏光顕微鏡観察、固体密度およびFT-IR測定)、2) 磨砕⇔加熱(溶媒蒸気)によるMFCに及ぼす要因について、色素骨格や置換基、分子凝集状態での双極子間相互作用、分子間水素結合および分子間π-π相互作用の観点から基礎的に解明する(摩砕後の色素固体の光吸収・蛍光発光波長と発光量子収率の変化、励起波長に依存した蛍光発光特性、および加熱や溶媒蒸気による固体吸収・蛍光発光の戻り特性の解明)。さらに、1) 得られたMFC特性に関する実験結果、理論的考察、および速度論的・熱力学的知見を分子設計にフィードバックして、色素構造を最適化することでMFC特性の調整を図り、磨砕前後の赤、青、緑発光(三原色発光)および多段階MFC(多色発光・多段階発光)の発現を達成し、書き込み・消去型の発光表示デバイスの作製に取り組む。2) さらに、光誘起電子移動(Photo-induced Electron Transfer: PET)特性を有するクラスレート形成蛍光性色素を用いて、水やカルボン酸分子の包接・放出に伴う未踏の固体PET特性と固体発光特性の発現・消失を可逆的に制御した新しい外部刺激応答性ソフトクリスタル群の構築を目指す。
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