研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
18H04522
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
嘉部 量太 九州大学, 最先端有機光エレクトロニクス研究センター, 助教 (00726490)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機蓄光 / 電荷分離 / 電荷再結合 / 有機半導体 / フォトルミネッセンス |
研究実績の概要 |
有機蓄光材料は、レアメタルを必要としない、溶液プロセスで簡便に作成できる、透明性と柔軟性を両立できるなど、従来の無機蓄光材料では困難な特色を付与可能である。しかし、アモルファス状態の有機固体混合物中で生じる複雑な発光過程の詳細を解明することは容易ではない。本研究ではよりシステムを単純化した混合結晶状態における有機蓄光を実現することで、より詳細な発光メカニズム解明を実現する。 まず有機蓄光システムの特色を活かすために、分子間のエネルギー移動を利用して発光色制御を実現した。さらに低分子では厚膜化時にクラックが生じるため、高分子型アクセプターを用いることで透明フレキシブルな蓄光フィルを実現した。また蓄光システムはメルトキャスト法だけでなくスピンコートや真空蒸着でも同様に作成できることを確認した。 これまでに平面型ドナー分子及びアクセプター分子からなる混合結晶の作成に成功し、有機蓄光において重要なエキサイプレックス発光を示すことを確認した。しかし、単結晶化によってアクセプター分子同士の分子間相互作用が大きくなり、分子凝集による新しい三重項準位の形成が確認された。この三重項準位への電子移動によって蓄光発光が消光していることが考えられた。 そこで、三重項準位の影響を解明するために、同様の分子骨格を有し、三重項準位の異なるドナー材料を用いて蓄光特性を比較した結果、三重項準位によって発光過程が変化し、三重項の低い材料では三重項からの燐光発光として蓄光発光が取り出されることを確認した。 これらの結果から、結晶系において有機蓄光をするためには三重項準位の制御が重要であることを解明した。今後はこの結果に基づき。三重項準位の高い結晶系有機蓄光材料を開発していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平平面型ドナー材料とアクセプター材料を用いることで、これらが任意の割合で混合した混合結晶を作成できることを確認した。さらに、この混合結晶は電荷移動発光を示し、その混合比によって発光色が変化することを確認した。 一方、この混合結晶からは蓄光発光が観測されなかったが、これは分子凝集による新しい低い三重項準位の形成と、この三重項準位への電子移動過程によって生じることを解明した。このため、分子設計指針として、三重項準位の十分に高い平面型ドナーおよびアクセプター材料の開発が重要であることを見出した。 今後はこの設計に基づいた材料開発を行い、結晶系有機蓄光を実現することで、蓄光発光の顕微分光などの解析を可能とする。
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今後の研究の推進方策 |
平面型かつ高い三重項準位を有するドナーおよびアクセプター材料を開発する。また分子間相互作用が大きく、凝集による新しい準位形成が確認される場合は側鎖に嵩高いフェニル基などを導入し、抑制する。具体的にはドナーとしてトリフェニルアミンおよびフェニルカルバゾール誘導体を、アクセプターとしてトリフェニルトリアジン、フタルイミド誘導体を検討する。 また有機蓄光の観測・制御手法として、顕微分光を利用し、電荷の拡散過程や発光の挙動をより秩序だった構造の中で観測し、詳細な発光過程解明へとつなげる。結晶中でのキャリア移動度と蓄光発光の相関や、磁場に対する応答を観測し、外部因子による蓄光制御を実現する。
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