研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
18H04529
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
石川 立太 福岡大学, 理学部, 助教 (00736556)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ソフトクリスタル / 交差相関物性 / スピン転移 / 電気伝導性 / 多重物性 / 外場応答性 / 配位超分子 |
研究実績の概要 |
本研究は、物理的外部刺激に応答してスピン変換制御可能な金属錯体と高電気伝導性を有する有機伝導性分子を配位結合 (強い結合) と非共有結合 (弱い結合) により巧みに自己集合させた異方的剛直性・柔軟性を兼ね備える外場応答性交差相関物性型物質の合成とその物理・化学的性質の解明を目的としている。 本年度は、有機伝導性分子にテトラシアノキノジメタン (TCNQ) および テトラシアノエチレン (TCNE) を用いた鉄と銅錯体の合成に成功した。TCNQを用いた系では、鉄および銅いずれの錯体においても部分還元されたTCNQが架橋配位子として働くことで梯子状構造を有し、さらにTCNQ分子間でスタッキングを介した一次元カラム構造をもつ三次元自己集合体結晶 (ソフトクリスタル) であることをX線構造解析により明らかにした。TCNEを用いた銅錯体では、合成時に使用する溶媒に応じてTCNEが加溶媒分解した生成物が配位した自己集合体結晶を生成することをX線構造解析により明らかにした。 磁気特性および電気伝導度測定の結果から、TCNQを用いた系では、磁性と電気伝導性が互いに強く相互作用していることが示された。銅錯体の系では、高温相において、励起スピン状態と伝導電子がカップルすることが温度可変電子スピン共鳴測定により示された。一方、鉄錯体の系では、熱を外部刺激としてスピン状態および電気伝導度を同時に変換 (低温相: 非磁性/非伝導; 高温相: 常磁性/半導体) できることが示され、さらに高温相では、磁性と電気伝導性が強くカップルすることで磁気抵抗効果を示すことも伝導度の磁場依存測定から明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画で今年度 (2019年度) に実施予定としていたターゲット化合物の大部分 (TCNQを用いた系) を合成でき、それらの分子の構造解析、各種分光学的測定 (温度可変赤外吸収スペクトル・ESRスペクトル・粉末X線)、磁気物性測定、および伝導性測定を完了することができた。また、物性測定においては、磁性と電気伝導性が互いに強くカップルした結果から磁気抵抗効果の観測にも成功した。 一方、TCNEを用いた系では、当初予測していた錯体とは異なった錯体として単離された。しかしながら、用いる溶媒によりTCNEが様々な有機分子にin situで選択的に変換されることが各種分光法とX線構造解析により示され、それらはビルディングユニットの架橋配位子として作用することで、様々な配位集合体結晶を導くことを明らかにできた。 これらの結果は、本研究目的である配位結合 (強い結合) と非共有結合 (弱い結合) により自己集合させた異方的剛直性・柔軟性を兼ね備えた外場応答性交差相関物性型物質の有力な候補物質を構築できたと考えられる。従って、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、外場応答性交差相関物性型ソフトクリスタルの系の拡張を実施する。有機伝導性分子であるTCNQは、様々な置換基を導入可能であるため、それらTCNQ誘導体を用いて系統的に外場応答性交差相関物性型ソフトクリスタルの合成を行い、磁性と電気伝導性の交差相関のより詳細な解明を行う。加えて、非磁性および非導電性部位を導入した同様の系を構築することで交差相関の機構について検討する。さらに、これまでに使用した有機伝導性分子以外にもTTF (テトラチアフルバレン) 系の骨格を有する有機伝導分子を用いて、新たな外場応答性交差相関物性型ソフトクリスタルの構築を目指す。
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