細胞内シグナル伝達機構や細胞骨格構築機構において、細胞質タンパク質と生体膜に局在するホスホイノシタイド/イノシトールリン脂質(PIPs)との相互作用は重要である。近年の遺伝子改変マウスやヒトの疾患遺伝子解析によって、PIPs代謝酵素の活性異常や変異、またPIPsの脂肪酸組成の違いが、炎症性疾患やがんなどの病理に関与していることが明らかになっている。本研究課題では、脂質―タンパク質相互作用においてリポクオリティが果たす生物学的意義を原子・分子レベルで明らかにするために、細胞質タンパク質に含まれる膜結合部位であるプレクストリン相同(PH)ドメインとホスホイノシタイド(PIP)含有脂質膜のマルチスケール分子動力学シミュレーションを行った。膜内に含まれるPIP濃度に依存してPHドメインと生体膜の結合様式が変化することを明らかにした。特に、GRP1-PHドメインには複数のPIP結合サイト(親和性が強いサイトから弱いサイトまで)が存在しており、PHドメイン周りのPIP濃度に応じて膜表面でのPHドメインの結合状態や膜との結合親和性が変化することがわかった。また、BTK-PHドメインと生体膜との相互作用において、PIPのアシル基の違いが結合親和性に影響を与えることを見出した。特に、アラキドン酸アシル基との相互作用において重要なアミノ酸を同定した。このアミノ酸残基に変異をもつBTK-PHドメインは、人口脂質膜を用いた試験管内での実験においてもリン脂質二重膜への結合活性が減少することが確認された。
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