昨年度に構築したHi-Cデータを解読する理論に基づいて、2次元Hi-C行列データを入力データとする染色体4D解析ソフトウェア「PHi-C(ファイシー)」の開発に成功した。入力データは、規格化補正処理の後、入力データを非常に高精度で再現可能なポリマーネットワーク上の2次元相互作用行列データの最適解としての変換される。それら二つの行列間の対応を理論的に導き、相対的に低計算コストの最適化アルゴリズムを開発した。最適解としての相互作用行列を使うことで、Hi-Cデータに整合する染色体の4次元ダイナミクスがシミュレーションが可能になった。その解析用コードはhttps://github.com/soyashinkai/PHi-Cにて公開している。実験データとの比較では、PHi-C解析による理論的予測はマウスES細胞で観測される遺伝子座動態の結果と整合する。さらに、染色体凝縮時のHi-Cデータに適用すると、染色体がロッド状に凝縮形成されていく過程をHi-Cデータのみから再現することができた。 続いて、Hi-Cデータに対するマイクロレオロジー法の構築に成功した。PHi-C解析から得られる各染色体座標における動的な振る舞いを動的レオロジー特性として解釈し、ゲノムのレオロジー的な固さ・柔らかさという定量的な情報に変換できることを明らかにした。マウスES細胞が神経細胞へ分化する際のHi-Cデータに適用した結果、TADsやコンパートメントのクロマチンドメインの境界が、固く、その内部の流動性が高いことがわかった。そして、分化において染色体が全体として固くなっていくことが明らかになった。一方で、活性・不活性なコンパートメント領域がレオロジー的に弾性的・流体的であるかを調べた結果、ほとんど差は見られなかった。分化した時の不活性領域間の協調的な流動性の出現だけが特徴的であった。 これら2報を国際誌で出版した。
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