トンボは基本的に視覚で相手を認識することから、雌雄で翅や腹部の色彩・斑紋が著しく異なる種が多く存在する。興味深いことに、幅広いトンボでオスに擬態するメス(オス型メス)や、逆にメスに擬態するオス(メス型オス)が出現する。この現象は、生態学的な面から研究が進められてきたが、多型や性分化に関する分子基盤はほとんど未解明である。本研究では、複数種のトンボのメス多型、オス多型に着目しながら、トンボの性分化メカニズムを包括的に理解することを目指す。 2019年度はメス多型が見られるコフキトンボに着目して比較ゲノム解析を進めた結果、原因遺伝子の有力候補を絞り込むことに成功した。また、前年度までに多型の原因遺伝子を調べる目的でチョウトンボおよびニホンカワトンボの比較ゲノム解析を進め、チョウトンボに関しては、多型の原因と考えられる遺伝子座の構造を決定した。この原因遺伝子座は、予想以上に複雑な構造をとることが明らかになった。さらに、原因遺伝子の候補が1つに絞られていたチョウトンボに関して、追加でRAD-seqを用いたGWAS解析を行った結果、これまで着目していた領域の1か所のみが多型と強く相関することを見出した。また、strand-specificなRNAseq解析を追加で行い、予測遺伝子を網羅的に整理した。ニホンカワトンボのオス多型に関しては、引き続きRNAseq解析とRADseq解析によって、多型と相関の見られる領域の絞り込みを進めている。
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