研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
19H04598
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
小野 晶 神奈川大学, 工学部, 教授 (10183253)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | metallo-DNA/RNA / mirror-DNA/RNA / L-DNA/RNA / helicity control / metallo-RNA duplex / benzene nucleic acid / metallo-base pairs / Hg RNA wire |
研究実績の概要 |
2019年度は逆のヘリシティー(ミラーイメージ)を持つ螺旋状金属イオン集積体(metallo-RNA duplex)を合成した。天然型RNA(D-RNA)の合成には市販のRNA合成用モノマーユニットを用いた。L-RNAはモノマーユニットから合成した。即ちL-riboseからL-uridineを合成し、さらにモノマーユニットへとしRNA合成に用いて、ウリジン三量体、D-r(UUU)とL-r(UUU)を合成した。UUUの溶液にHg(II)イオンを添加した。溶液の吸光度変化、およびCDスペクトル変化を測定することで、Hg(II) イオンにより仲介された金属含有塩基対、U-Hg(II)-Uが形成されたことを確認した。即ち、短鎖のHg-RNA二重鎖(ワイヤー)が形成されたことを確認した。D体のHg-RNA二重鎖、L体のHg-RNA二重鎖のCDスペクトルは、対称的なCDバンドを与えた。即ち、Hg(II)イオンは、D二重鎖とL二重鎖中、逆の螺旋を形成していた。逆向のヘリシティーで金属イオンを集積化させた初めての例となった。 上野(研究協力者)の開発したベンゼン核酸の形成する二重鎖は、右巻きと左巻きの平衡にあり、CDスペクトルは分裂を示さない。2019年度は、チミン塩基を結合したベンゼン核酸の三量体(TTT)(下線はベンゼン核酸であることを示す)を合成した。TTTの溶液にHg(II)イオンを添加すると、チミン塩基に由来する吸収が変化した。吸光度の変化とHg(II)の量から、T-Hg(II)-T塩基対が形成されたことが推測された。即ち、Hg-(TTT)ワイヤーが形成された。ベンゼン核酸が金属含有塩基対を形成した、初めての例となった。不斉アミンを添加する、不斉インターカレーターを添加するなど、Hg-(TTT)ワイヤーにヘリシティーを誘起する手法を検討したが、成功しなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019 年度、研究の第一歩を踏み出すことに成功した。合成RNAを用いて、逆のヘリシティー(ミラーイメージ)を持つ螺旋状金属イオン集積体(metallo-RNA duplex)、Hg-(UUU)を、世界で始めて合成した。2019年度の研究では、Hgイオンの集積体を合成したが、RNA塩基部を化学修飾することでAgイオンやAuイオンを集積化することが出来る。DNA二重鎖に比較して、RNA二重鎖は緩やかで大きな螺旋構造を形成する。DNA二重鎖に集積化された金属イオンに比較し、RNA二重鎖に集積化された金属イオンは、より大きな弧を画きながら集積化される。様々な金属-DNA二重鎖の構造が報告されているのに比較して、金属-RNA二重鎖の構造研究は進んでいない。 まとめると、逆のヘリシティーを持つ金属-RNA二重鎖の物性研究をための、合成的手法を確立することが出来た。逆のヘリシティーを有する金属-RNAワイヤーは、逆の電気的、磁気的性質を有すると期待される。 もう一つの研究は、あえてヘリシティーを持たない二重鎖を合成して、外部刺激により選択的にヘリシティーを誘起する手法を開発する研究である。ヘリシティーを持たないワイヤーとして、ベンゼン核酸に注目した。2019年度はベンゼン核酸を化学合成し、Hg-ベンゼン核酸ワイヤーが形成されることを世界で初めて証明した。金属イオンを介して形成されるベンゼン核酸二重鎖は、全く新奇な物質であり、その構造と物性は興味深い。核酸のホスホジエステル結合に存在する負電荷に着目し、不斉アミンを結合することで、Hg-ベンゼン核酸ワイヤーに不斉を誘起する手法、不斉を有するインターカレーターを結合する手法を検討した。
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今後の研究の推進方策 |
研究室において、逆のヘリシティーを有する金属-RNAワイヤー、D体の金属-RNA二重鎖、およびR体の金属-RNA二重鎖を合成する手法を確立した。今後の研究目的は、金属-RNA二重鎖の構造と物性を解析することである。様々な金属-DNA二重鎖の構造が報告されているのに比較して、金属-RNA二重鎖の構造研究は進んでいない。2019年度は、金属-RNA二重鎖の結晶化と構造解析研究に着手した。すでに結晶は得たものの、構造解析には至っていない。2020年度も金属-RNA二重鎖の合成と構造解析を継続的に発展させる。 また、2020年度は、金属-RNA二重鎖の単分子物性の測定に着手する。第一に、単分子導電性(スピン偏極電流)の測定に臨みたい。ミラーイメージのmetallo-duplexから、逆の偏極電流が観測されることが期待される。 2019年度の研究で、不斉点を持たない核酸アナログ、ベンゼン核酸を合成し、Hg-ベンゼン核酸ワイヤーを合成することに成功した。当初予想したように、Hg-ベンゼン核酸ワイヤーは螺旋のキラリティーを持っていなかった。次の研究は、外部刺激により、Hg-ベンゼン核酸ワイヤーに螺旋のキラリティーを誘起する手法を見出すことである。ベンゼン核酸はリン酸ジエステルバックボーンに負電荷を有する。2019年度、不斉アミンを結合することで、ベンゼン核酸に不斉を誘起することを試みた。市販のアミノ酸誘導体を用いたが、ベンゼン核酸に不斉を誘起することは出来なかった。成功に至らなかった原因として、ベンゼン核酸が短鎖であったこと、モノアミンの及ぼす立体的効果が小さいことなどが挙げられる。2020年度は、より長鎖のベンゼン核酸、複数の不斉点を持つオリゴアミンを用いて実験する。将来的には偏光を照射することで、Hg-ベンゼン核酸にキラリティーを誘起する研究に着手したい。
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