研究実績の概要 |
2020年度の研究目的は、2019年度に引き続き、核酸(DNA/RNA)の螺旋構造を利用して螺旋状金属イオン集積体を形成させることであった。2019年度はRNAを用いて逆のヘリシティー(ミラーイメージ)を持つ螺旋状金属イオン集積体(metallo-RNA duplex)を合成したが、2020 年度は、DNA二重鎖やRNA二重鎖よりも大きな螺旋構造を有する核酸二重鎖を合成することを目指した。 一つの試みは、DNA二重鎖とRNA二重鎖をタンデムに連結したDNA-RNAキメラ二重鎖を用いるものである。DNA二重鎖とRNA二重鎖の螺旋構造は異なっている。即ち、DNA二重鎖の螺旋構造は細くて直線的で、RNA二重鎖の螺旋構造は大きく湾曲している。DNA-RNAキメラ二重鎖は、直線的なDNA二重鎖を湾曲しているRNA二重鎖で結合したものであり、全体として大きならせん構造を形成する。既に、棒状の短鎖Ag(I)-DNAワイヤー(内部で11ヶのAg(I)イオンが連続している)合成することに成功した。この短鎖Ag(I)-DNAワイヤーを、metallo-RNA duplex(2019年度に合成した)で連結することで、大きな螺旋構造を有する螺旋状金属イオン集積体を合成する。2020年度はコロナ肺炎に配慮して、密にならない環境で実験可能な結晶化実験を行い、いくつかの結晶を得た。今後、構造解析を進める予定である。 もう一つの試みはDNA二重鎖(またはRNA二重鎖)の外側に金属錯体を集積化する試みである。この計画では、DNA(RNA)の塩基部に側鎖を介して金属錯体を結合する。DNA二重鎖(RNA二重鎖)に沿って集積化するには、平面構造を有する金属錯体が望ましい。本計画ではメタロサレン構造を用いる。2020年度は、DNA塩基部に1,2-ジアミノベンゼン骨格を結合した短鎖DNAを化学合成するための、新規合成ルートを開発した。1,2-ジアミンを利用してDNA二重鎖外部にメタロサレン骨格を構築することで、大きな螺旋状金属イオン集積体を合成する準備が整った。
|