研究領域 | ヒッグス粒子発見後の素粒子物理学の新展開~LHCによる真空と時空構造の解明~ |
研究課題/領域番号 |
19H04616
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
宮本 祐樹 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 研究准教授 (00559586)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / アクシオン / コヒーレンス |
研究実績の概要 |
暗黒物質の探索は現代物理学の重要な課題の一つである。暗黒物質の有力な候補としては、超対称性粒子(SUSY)やWIMP(weakly interacting massive particles)、そしてアクシオンなどが挙げられてきた。しかしTeV程度の質量をもつSUSYの存在はCERNにおける高エネルギー陽子陽子衝突実験により否定されつつあり、大規模地下実験が精力的に行われているWIMPに関しても、兆候は見られていない。アクシオン探索も世界中で行われているが、理論が予測するパラメータ領域まで感度のある実験が現時点では少なく、探索されたパラメータ領域も狭い。逆説的に、暗黒物質の候補として依然有力である。このような背景のもと、アクシオン探索の新たな手法として原子・分子エネルギー準位間のコヒーレントな遷移を用いる実験が提案されている。本課題は固体中の原子・分子の準位を標的として行うアクシオン探索の原理検証を行うものである。 本課題では当初、固体水素中の分子を標的とすることを計画していたが、その後の理論的な検討により、誘電体中のランタノイドイオンが標的として浮上した。そこで、予定を変更し本年度はエルビウムイオン(Er)がドープされたイットリウムオルソケイ酸(Y2SiO5)結晶を標的とした基礎的な分光実験を行った。この系は位相緩和が固体であるにもかかわらず非常に長い(ミリ秒)ことで知られているもので、本研究における標的の有力な候補の一つである。具体的にはフーリエ変換型赤外吸収分光器やチタンサファイアレーザーを用いて、4Kに冷却した結晶の吸収スペクトルを測定し、その特性を測定し、またスペクトルの温度変化から各遷移のアサインメントを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画では本年度はレーザーおよび標的の作成、標的の分光を行う予定であった。標的を変更したために予定とは多少異なる手順にはなったが、標的の吸収分光を行い、基礎的な情報を得ることに成功しているため、本課題はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施計画に従い、今年度は本研究が目指すアクシオン探索手法の原理検証を行う。具体的には、黒体輻射により起こる遷移を結晶中に生成したコヒーレンスにより増幅し、その検出を試みる。黒体輻射による遷移は、本課題が目指すアクシオン探索手法における主要なバックグラウンドでもあるので、バックグラウンドの評価としても重要である。
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