宇宙の27%を占める暗黒物質の正体は,素粒子と宇宙にまたがる大きな謎である.宇宙背景放射や大規模構造の観測から,暗黒物質は初期宇宙の熱平衡状態から膨張・冷却の過程で凍結され残存した未知の素粒子(WIMP)であるという仮説が有力となっている. 宇宙線電子は,ガンマ線や反粒子を含む暗黒物質間接探索の中でも,特に局所宇宙に感度のあるユニークなプローブである.2018年度にPhysical Review Lettersにて発表されたCALET全電子スペクトルには,数百GeV付近と1TeV付近に微細な構造が存在する可能性がある.本研究ではこの着目して,暗黒物質探索に新たな光を当てることを目的としてきた. 2020年度には,前年度に培った共同研究の土台を引き継ぎ,物理的な動機付けがあり,かつ全電子スペクトルの微細構造を暗黒物質起源として説明することができるモデルを構築し,Physical Review Dにて出版した.本論文では,他観測・他実験における制限や銀河内伝播過程の影響を考慮した上で,CALETの全電子スペクトルを暗黒物質探索の観点から解釈している.現状では既に,暗黒物質と原子核の反跳信号を探索する直接観測や,ガンマ線を用いた間接観測により厳しい制限が与えられていることから,特にそれらのチャンネルへのカップリングが抑制されたモデルにおける電子観測の意義について議論している. それと同時に,国際宇宙ステーションにおける長期安定観測を継続してスペクトルの精度を向上させるため,軌道上運用の継続とそのさらなる安定化を実施した.既に2018年の論文作成時の2倍を超える統計が得られており,全電子スペクトルのさらなる高精度化を目指し,イベント毎の電子陽子識別など,さらに発展した解析方法を開発している.
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