研究領域 | 都市文明の本質:古代西アジアにおける都市の発生と変容の学際研究 |
研究課題/領域番号 |
19H05037
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研究機関 | 静岡文化芸術大学 |
研究代表者 |
青木 健 静岡文化芸術大学, 文化・芸術研究センター, 教授 (50745362)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イラン / 仏教 / 石窟 / 仏足石 / 海のシルクロード |
研究実績の概要 |
この研究は、①イランのペルシア湾岸の「伝・仏教石窟」と②ホルムズ海峡沿岸部の「仏足石(?)」を2年間のうちに2回調査し、サーサーン朝ペルシア帝国時代に、海のシルクロードを伝った文化伝播を明らかにすることを目的とする。その為に、奈良県立橿原考古学研究所の研究者の研究協力を仰ぎ、2019年度当初に橿原を訪問して、考古学と仏教遺跡に関する知見を交換した。また、現地の遺跡はかなり分かり難い地点に点在するので、イランのシーラーズ大学の院生に案内を依頼するなど、調査に当たって万全の態勢を整えていた。 然るに、第1弾として2020年1月にペルシア湾岸調査を計画して、旅行会社に日程を組んで頂いた段階で、イランとアメリカの国際関係が極度に緊張した。特に、アメリカによるイラン革命防衛隊司令官暗殺により、1月の渡航は断念せざるを得なかった。その後、改めて2月の渡航を計画したところ、今度は世界的にコロナウィルスが蔓延し、イランは逸早く渡航禁止国に指定された。これで、イランに限らず、海外調査全般が当分の間不可能になった。 この状況に鑑みて、2020年度は、2回のイラン調査を1年のうちに纏めて実施せねばならない。そこで、渡航中止期間には、仏教石窟と仏足石に関する関連文献を可能な限り蒐集し、「イランにおける仏教」に関する仮説の構築に全力を注いでいる。特に、Whitehouse, Ball, Vaziriの先行研究には、啓発されるところが多い。これらの先行研究と、インド洋沿岸部に展開した上座部仏教の拡大状況とを対照させながら、イランにおける海からの仏教伝播を探りたい。 しかしながら、現地を見ずに仮説を組み立てる作業には、自ずから限界がある。余りにも仮説が先行する研究は好ましくないので、2020年度は、コロナが収束し次第、イランの現地を訪れることとしたい。コロナウィルスの一刻も早い収束を期待するばかりである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
この研究計画では、2019年度と2020年度の2回に亙って、イランの遺跡調査を予定していた。この最終目的に沿って、2019年度には、仏教石窟の調査に関して綿密な打ち合わせを行い、イランの現地調査寸前まで研究計画は進行していた。しかし、2020年1月に、イランとアメリカの国際関係が極度に緊張し、イランへの渡航は事実上不可能になった。2020年2月には、世界的に新型コロナウィルスが流行し、イランに限らず海外渡航全般が不可能になった。このような不可測の状況が生起した為に、この研究は大幅な遅れを余儀なくされている。コロナウィルスの状況次第ではあるが、科研の研究期間の延長をお願いしたいケースも出てくると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
コロナウィルス収束の情況は見通せないが、イランとアメリカの国際関係については、ある程度の予見が可能である。そこで、イランへの渡航は不可能だが、それ以外の国への渡航は可能になった場合のシナリオを準備している。もちろん、2020年度中に2回のイラン調査が可能であれば、それに越したことは無く、以下の予備シナリオは不要である。 本研究の目的は、サーサーン朝ペルシア帝国時代のイランへの仏教流入の痕跡を探ることである。この目的に照らせば、敢えてペルシア湾岸に拘る必要はなく、インドからイランに至る中間地点にある中央アジア諸国を調査対象に加えることも可能だろう。その中でも、研究代表者が注目しているのが、トルクメニスタンである。既にウズベキスタンやアフガニスタンの仏教文化に関しては、相当の先行研究の蓄積があるが、最もイラン寄りのトルクメニスタンについては、この国が事実上の鎖国状態にあることもあって、研究の蓄積が殆ど無い。この国の中の仏教遺跡に関して知見を深めるだけでも、ある程度学界への貢献になると思われる。 また、本研究の独自性は、サーサーン朝ペルシア帝国時代の海のシルクロードの着目した点にある。この視点を尊重するとしたら、ペルシア湾岸で確認されるであろう「仏教遺跡」を、海のシルクロードに沿った上座部仏教の編年史に落とし込む作業が必要になる。而して、イランから見て直近の上座部仏教文化はスリランカで栄えているので、「イランの仏教遺跡」と対照させるべき仏教文化は、スリランカの文化と考えられる。この観点からすれば、予想される「イランの仏教文化」と対照させる為に、予めスリランカの仏教石窟遺跡を調査しておく必要がある。 以上、イラン調査が不可能な場合に備えて、①トルクメニスタン調査と②スリランカ調査と云う2つの予備シナリオを準備しつつ、コロナウィルスの沈静化を期待しているところである。
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