強い精神的ストレスは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など種々のストレス性精神疾患を引き起こす。過度なストレスは、扁桃体を中心とする神経回路だけなく脳全体を大規模に活性化させ、不安やfreezingなどの行動応答を惹起する。しかしながら、これまで、扁桃体や前頭前野など特定の脳領域に着目した研究、または低解像度な脳機能マッピング研究など、各階層の研究にとどまり、ストレス性精神疾患の構成的理解にまで至っていない。この課題を解決するためには、強いストレス刺激による脳全体の活動変化、構造変化、さらにその中の重要な個々の細胞の遺伝子発現変化などを多階層に解析する必要がある。 そこで本年度は、ストレス性精神疾患の病態を創出する最小パーツを理解するため、全脳活動マッピングより得られた前障において、ストレス応答性と非応答性の神経細胞から単一細胞トランスクリプトーム解析、回路マッピングを実施し、細胞特性や分子マーカー、ストレス応答性神経ネットワークを明らかにすることを目指した。今年度はストレス応答性前障神経細胞の単一細胞トランスクリプトーム解析を実施し、前障マーカーおよび最初期遺伝子が発現増加していることを明らかにした。さらに、クラスタリング解析の結果、前障のストレス応答神経細胞は、3つの群に分かれることを明らかにした。今後は、さらなる詳細な解析と機能解析を進め、精神疾患の構成的理解に貢献することを目指す。
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