研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
20H04651
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小門 憲太 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (40600226)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多孔性結晶 / 架橋 / 異方伸縮 / 刺激応答性 / ゲル / モンテカルロシミュレーション / クリック反応 / キラルホスフィン |
研究実績の概要 |
多孔性結晶のソフト化による刺激応答性異方伸縮ソフトクリスタルの開発に向けて、本年度は①多孔性結晶内での重合挙動の調査とモンテカルロシミュレーショ ンによる予測、②さまざまな架橋剤を用いた異方変形ゲルの作製、③光励起状態で四面体反転を示す分子ユニット、という3点に関しての詳細な検討を行なった。 ①に関しては、2官能性モノマーを用いた重合の実験とモンテカルロシミュレーションによる重合挙動が正確に一致したことから、周囲に存在するいくつかのモ ノマーから反応相手を選び出す過程が存在する重合系では重合度が一定の値に収束する一般性を明らかとし、4官能性モノマーを用いて作製したネットワークポリマーなどの複雑な構造体に関してもシミュレーションで精度良く予測可能であることを見出している。論文は現在投稿準備中である。 ②に関しては、直方体形状のMOFを加水分解後に鋭角70°未満に達する平行六面体へと変形させる条件を見出した。多孔性結晶内部での反応性官能基の偏在と配列が変形挙動に決定的に重要であることを見出している。国内で開催された国内学会でその進捗状況に関して発表を行なった。論文は現在投稿準備中である。 ③に関しては、キラルホスフィンを用いた光照射実験と円二色性測定によって光励起状態で四面体反転が起きていることが示唆された。領域内共同研究による量子化学計算を用いた最急降下経路の算出によって、光励起状態ではホスフィンの四面体反転のエネルギー障壁が著しく減少していることが示され、これはキラルホスフィン固有の現象にとどまらずホスフィンに普遍的な現象であることが分かった。この成果はChemistry - An European Journal誌に掲載決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多孔性結晶のソフト化による刺激応答性異方伸縮ソフトクリスタルの開発に向けて、本年度は①多孔性結晶内での重合挙動の調査とモンテカルロシミュレーションによる予測、②さまざまな架橋剤を用いた異方変形ゲルの作製、③光励起状態で四面体反転を示す分子ユニット、という3点に関しての詳細な検討を行なった。 ①に関しては、4点アジド基を有する有機配位子を2点アジド基を有する有機配位子と任意の割合で混合して作製したMOFに2官能性のゲストモノマーを導入してクリック反応によって重合したところ、モンテカルロシミュレーションで予想したパーコレート点とほぼ同じ4点アジド基有機配位子の分率でゲル化が引き起こされることが分かり、ゲル分率もシミュレーションで求めた最大クラスター占有率と非常によい一致を示すことが分かった。このことから3次元ネットワークの生成もシミュレーションで非常に精度良く予想できる系であることが明らかになった。 ②に関しては、ジピリジルベンゼンをピラー配位子、アジド基を有する有機配位子をレイヤー配位子として作製したピラードレイヤー型MOFに対し、さまざまな大きさや官能基数を有する架橋剤を細孔に導入し、架橋反応を行なったところ、直方体形状のMOFが加水分解後に鋭角70°未満に達する平行六面体へと変形する挙動が見出された。また、従来のターフェニル型ではなくキンクフェニル型のアジド基有機配位子を新たに合成し多面体ゲルを作製したところ、斜方膨潤時の異方性が全く逆になることも明らかになった。これらはMOF内部で結晶の対角線上に架橋の疎密が生じた結果であると考えられる。 ③の研究を通して大きな変形現象を誘起できる新たな分子ユニットを探り当てることができた。これらの結果によって異方伸縮ソフトクリスタルの開発に向けて新たな知見が蓄積された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は①刺激応答性の付与と②大面積(体積)化に関する検討を行なう。 ①に関しては刺激に応答して長さが変わる架橋剤を開発することを考えている。これまで、刺激に応答して会合解離が変わる架橋剤の合成を考えていたが、このシステムでは解離した架橋剤が再度同じ場所に帰ってくる保証はなく、伸びたら伸びっぱなしになる危険性が排除できない。そこで、今年度合成する予定の架橋剤は長短2本の鎖を有する架橋剤とし、短い方の鎖が外部刺激に応答して結合解離する仕組みとしておけば、この反応点同士は無限遠に離れてしまうことはなく、長い鎖で近傍には存在することとなるので、可逆的に結合解離を揺り返すことができると予想され、ひいては可逆的な伸縮挙動を示すことができると考えられる。短い鎖の反応点にはジスルフィド結合の使用を考えている。これが最もアトムエコノミックであり、鎖を短くできる設計であると考えられる。この架橋剤で架橋したピラードレイヤーMOFのピラー配位子を1官能性の配位子へと交換し、これの異方伸縮挙動に関して検討を行なう。従来のゲルでは架橋点の長さが変わろうがゲル全体の物性に及ぼす影響は微小であると考えられるが、申請者のゲルは極めて高い異方性を有するために、長さの変わる架橋剤を用いることで異方伸縮材料を達成できると考えられる。 ②に関してはディップコータを購入し、カルボン酸基やピリジル基を密生させるように処理した基板を金属イオンとレイヤー配位子の溶液とピラー配位子の溶液に交互浸漬することで基板上にピラードレイヤー型MOFを作製することで、大面積(体積)化を試みる。得られた配向ピラードレイヤー型MOFに対して架橋反応を施し、ピラー配位子の交換を経て、異方伸縮材料の作製を行う。こちらに関しても刺激応答性の付与を検討するとともに、実際の仕事の取り出しに関しても検討を行なう。
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