公募研究
分子の発光機構の解明には、励起状態からの緩和経路を計算する必要がある。結晶中では、分子間相互作用による励起状態からの緩和経路の変調や、二分子あるいは複数分子間に広がった新たな電子励起状態を形成することも考慮する必要がある。様々な結晶構造をとりうる配位化合物間の相互作用においては、金属間相互作用と配位子間相互作用が競合するため、これらの多点での相互作用をバランス良く記述する理論計算手法を確立する必要がある。本研究では密度汎関数法をベースにした計算手法を開発して、金属間相互作用と配位子間相互作用の競合する分子結晶の発光過程の学理を構築することを目的としている。本年度は、まずQM/MM法の実装を進めた。QMには高速なRI-DFT計算が可能なTURBOMOLEを利用し、MMには理研杉田グループで開発されているGENESISを利用するインターフェースを作成した。現在は、金錯体への応用に向けたパラメータを検討している。また、前年に引き続き、光照射によって発光増強を示す金イソシアニド錯体(AntNC-Au-Cl、Ant=アントラセン)の光物性の解明を行った。今回は、分子が互い違いに積層した新たな結晶構造に基づいた金錯体二分子の励起状態計算を行い、吸収波長の変化をサポートする結果を得た。また、光によって二分子が化学結合したが付加体の励起状態計算も行い、分子間に結合ができることで、400 nm付近の特徴的な吸収が無くなることを示した。最後に、チオール保護金クラスターの中心原子を銅原子に置換することで、白金を追加でドープした際のドープ位置の変化や安定性が向上することが実験で示された。その理由を解明するために(TD)DFT計算を行い、Cu-PtがAu-Ptよりも結合が強いことが安定性の違いに寄与していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
予定していた手法開発の進展と共に、複数の共同研究も進めることができた。
次年度は当初の目的であった金錯体からなる分子結晶の励起状態の解明に取り組むために、適切なMMパラメータを導入する。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件)
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