研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
20H04653
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷川 靖哉 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80324797)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 相転移 / 希土類 / 発光 |
研究実績の概要 |
希土類錯体の発光特性は配位幾何学構造(ラポルテ許容性)に大きく依存することが知られている。本研究では、外部刺激によって希土類錯体の配位数と幾何学構造が変化する新しいソフトクリスタル変形の創成および光機能評価を行う。具体的には、7配位型ユウロピウム錯体に外部刺激(ピリジン誘導体)を添加/留去することに伴う8配位構造への可逆的なソフトクリスタル変形を検討する。その配位型ユウロピウム錯体の固体状態における可逆相転移を X 線構造解析により評価し、相転移における発光特性変化を時間分解分光測定により明らかにする。さらに、7配位希土類錯体から8配位希土類配位高分子へのソフトクリスタル変形を初めて検討し、相転移の中間状態における光機能(励起エネルギー移動過程)の解析を行う。 初年度では、ピリジン誘導体の単座配位子を含む7配位ユウロピウム錯体を合成し、単結晶を作成してX 戦構造解析を行う。得られた結晶をピリジン蒸気下に設置することで8配位への構造転移挙動の評価(X 線構造解析評価、分光評価)を行う。次年度では、ピリジン蒸気をトリガーとした7配位型の希土類錯体から8配位型の希土類配位高分子へのソフトクリスタル変形の検討を行う。具体的には、2座配位4,4’ビピリジン誘導体で連結した7配位型の希土類二核錯体を合成する。得られた単結晶をピジリン/窒素雰囲気下に設置することで、希土類二核錯体から配位高分子への構造変形挙動の発現を初めて試みる。 本研究では結晶中で配位数が変化する新しい4 f ブロック金属錯体を検討する。これまで分子が結晶内に取り込まれる相転移挙動は多く報告されているが、4 f 軌道を有する希土類錯体の配位数変化はこれまで報告がない。本研究は結晶中における配位数変化という新しいソフトクリスタル変形概念を拡張と光物理化学的挙動解析の点で、当該領域の研究推進を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1つのピリジン分子と3つのテトラメチルへプランジオネイト配位子から構成される7配位型の希土類錯体の粉末結晶にピリジン蒸気を加えることにより、2つのピリジン分子と3つのテトラメチルへプランジオネイト配位子から構成される8配位型の希土類錯体の粉末結晶へと構造変形(相転移)させることに成功した。この構造変化はピリジン蒸気存在鹿での7配位型の希土類錯体の粉末結晶のXRD測定により明らかとなった。この構造相転移はさまざまな希土類錯体で可能であることがわかった。 これらの2つのユウロピウム錯体はユウロピウムイオンからの基礎発光物性(発光寿命、発光量子効率)が大きく変化した。これは、ユウロピウム錯体の幾何学対称構造(放射速度定数の変化)と振動構造(無放射速度定数の変化)に起因していることがわかった。さらに、テトラメチルへプランジオネイト配位子からの光増感エネルギー移動効率が大きく異なることがわかった。レーザー分光測定および量子化学計算によって、配位子からユウロピウムイオンへのLMCT励起状態とユウロピウムの4f励起状態とのミキシングが大きく異なることがわかり、そのLMCT状態が光増感エネルギー移動効率に大きく影響を与えていることが初めて明らかとなった。 本研究により、希土類錯体の配位数の構造変化が起こるソフトクリスタル相転移現象を初めて明らかにした。このソフトクリスタル相転移はピリジン誘導体でも可能であり、ユウロピウム錯体だけでなく、他の希土類錯体にも拡張できることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
7配位型から8配位型への希土類錯体のソフトクリスタル相転移に関して、ピリジン配位子を4,4’-ビピリジンに拡張する。具体的には、4,4’-ビピリジンを連結部位とする7配位型希土類二核錯体を合成する。得られた7配位型二核錯体をピリジン蒸気にて8配位に変形し、ピリジンを留去することによる配位構造組み替えと8配位型の配位高分子形成を検討する。得られる化合物はESI-MS およびX 線構造解析にて評価する。さらに、配位高分子の分子構造形成に関して、計算化学によるシミュレーションを本学術領域内の共同研究として推進する。 さらに、2種類の7配位型希土類核錯体の混晶を作成することで、2種の希土類イオン混合系配位高分子へのソフトクリスタル変形の可能性を探求したい。その混合配位高分子は温度に依存した発光挙動変化を誘起し、その発光挙動変化は連結部位の電子構造に依存すると考えられる。最終年度では、配位相転移現象を用いた希土類混合高分子の創成と光機能評価を行う。合成された混合系高分子の発光寿命計測から希土類イオン間のエネルギー移動効率を算出する。クライオスタットを用いてエネルギー移動効率のアレニウス解析を用い、エネルギー移動時における活性化エネルギーの評価を見積もる。 希土類を中心イオンとする二核錯体(分子系)から配位高分子(高分子系)への初めてのソフトクリスタル相転移を検討し、ソフトクリスタル学術領域の研究拡張性の可能性を検討する。
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