本研究では応力や蒸気などの弱い外部刺激により分子結晶を含む固体材料系の長寿命室温りん光や光散乱機能が大きく変化するような材料の構築を目的としている。 (S)-H8-binaphthyl骨格を有する分子固体ホストに同様の分子形状を有する(S)- binaphthyl骨格を有する色素を少量ドープしたホストゲスト結晶は高輝度の長寿命室温りん光を示す一方で、グラインディングによる非晶化により長寿命室温りん光機能が消失した。結晶状態は数分間室温でジクロロメタン蒸気にさらすことで再度構築することが可能であり、その結晶状態では長寿命室温りん光挙動が初期にまで回復した。このように応力と蒸気を用いて可逆的に長寿命室温りん光のON-OFFが可能な材料系が構築された。 またH8-binaphthyl骨格の分子結晶薄膜の中には、ジクロロメタン蒸気下で弱い紫外線を照射すると揮発する挙動を示す一方で、蒸気にさらさない箇所ではそのような揮発が生じなかった。このように蒸気と光照射の協働刺激により結晶表面から分子が揮発するのに必要な光強度の大幅な低下が確認され、レーザーなどの強い光強度を用いずとも、弱い非コヒーレント連続光により大面積に結晶膜の高解像光エッチングが可能となることを見出した。 さらに非晶のホストゲスト固体薄膜の中には非晶に由来して光散乱機能がないが、紫外線照射すると2光子イオン化が生じ絶縁ホスト分子において電荷が蓄積され、その後電圧を印加するとガラス転移温度以下の温度域でもホスト分子が微小に動くことで結晶化が誘起され、光散乱能が顕著発現する材料薄膜が存在することを見出した。 以上弱外部刺激を用いて、長寿命室温りん光機能、エッチング機能、光散乱機能が大きく変化する材料を見出すことに成功した。
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