研究実績の概要 |
本研究では固体NMR法を用い、ベイポクロミック金属錯体について、蒸気吸着に伴う局所構造の変化、吸着分子の運動状態、金属の電子状態を解析する。分子運動や非晶質状態の局所構造の解析を得意とする固体NMR法にX線構造解析や理論計算を加え、ベイポクロミズムのメカニズムの解明を行うとともに物質設計に役立つ情報を提供する。 ベイポクロミズムが報告されている平面四配位白金(II)錯体 [Pt(CN)2(H2dcbpy)] (H2dcbpy = 4,4’-dicarboxy-2,2’-bipyridine)と[Pt(CN)2(H2dcphen)] (H2dcphen = 4,7-dicarboxy-1,10-phenanthroline)についてエタノール-d6,2-プロパノール-d8をゲスト分子として導入し,固体重水素NMR法を用いて運動状態を解析した。それぞれの試料について,分子内運動(メチル基の3回軸周りの回転)と分子全体の運動(等方回転運動)の情報を得ることができた。2-プロパノールにおいては,細孔径が大きい[Pt(CN)2(H2dcbpy)]でより速い等方回転運動が生じていることが分かった。これに対し,エタノールは[Pt(CN)2(H2dcbpy)]中で,細孔径が小さい[Pt(CN)2(H2dcphen)]中よりも運動が抑えられていることが分かった。 ベイポクロミズムを示す平面四配位白金(II)錯体の多くは、水素結合のような分子間相互作用によって吸着した分子が安定化されている。より強く吸着物質を安定化可能な配位結合を利用することで、蒸気が配位することによるベイポクロミズムを示すのではないかと考え、蒸気の配位サイトとしてカリウムイオンを有する新規白金(II)錯体を合成し、その蒸気応答性を調査した。
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