研究領域 | ソフトクリスタル:高秩序で柔軟な応答系の学理と光機能 |
研究課題/領域番号 |
20H04667
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
酒田 陽子 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (70630630)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マクロサイクル / 自己集合 / ロタキサン / イオン性結晶 |
研究実績の概要 |
本研究では、申請者が独自に開発した剛直なベルト状金属錯体:メタロナノベルトをビルディングブロックとして用いたイオン性ソフトクリスタルの創製を行うことを目的としている。前回の公募研究において、テトラアミノトリプチセンとPd(II)イオンからメタロナノベルトを自己集合により形成する際に、トリエチレングリコール(TEG)鎖を有するピラー[6]アレーン誘導体をテンプレートに利用することで五核メタロナノベルトの選択的に形成することに成功しており、このテンプレート効果は金属錯体部位とテンプレートのTEG鎖の間の多点水素結合に起因することも明らかにしている。この相互作用をより戦略的なソフトクリスタル創製へと利用するために、令和二年度は、環状オリゴエーテル鎖とメタロナノベルトの部分構造となるPd(II)単核錯体との相互作用について調べた。その結果、これらの2成分からロタキサン構造を効率的に形成できることを見出した。環状オリゴエーテルとすることで鎖状のオリゴエーテルと比べてPd(II)単核錯体との会合定数は2桁ほど向上した。また、この会合の強さは環状オリゴエーテルの剛直性や環サイズにも大きく依存することも見出した。今後この相互作用を利用することによりソフトクリスタルの創製が期待される。 また、新たなインターロック構造を持つソフトクリスタルの創製として、ジフェニルビオロゲンとDB24C8との新奇[3]擬ロタキサン結晶の構築も行った。溶液中における滴定実験の結果、この[3]擬ロタキサンは軸分子となるジフェニルビオロゲンと輪分子となるDB24C8が協同的に錯形成することで得られることを見出した。種々の検討により、この協同性の発現においては、芳香環を持つ24員環構造が重要であることも明らかにした。この協同性発現の詳細においては、領域内共同研究により計算化学的なアプローチによる解明を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、自己集合型ベルト状環状錯体「メタロナノベルト」を用いて、蒸気などの外部刺激に応答しやすい内在性細孔を持つソフトクリスタルを創製することを目的としている。本研究ではメタロナノベルトをどのような相互作用で連結するかが重要であるが、特に前回の公募研究で明らかとなった、トリエチレングリコール鎖とPd(II)-フェニレンジアミン錯体部位の相互作用は、本系独自のものであり集積化の際に利用できると期待された。しかしながら、メタロナノベルトの部分構造となるPd(II)単核錯体と鎖状オリゴエーテルとの相互作用は非常に弱く、また指向性も低いことから戦略的な分子配列には不向きという問題があった。それに対し、本年度は鎖状オリゴエーテルの代わりに環状オリゴエーテルを利用することで、Pd(II)単核錯体と非常に安定なロタキサン複合体を形成できることを見出した。環状オリゴエーテルは官能基化も容易であることから、今後合理的なメタロナノベルト集積によるソフトクリスタル創製が実現できると考えられる。また、当初の計画とは異なるが、[3]擬ロタキサン構造を持つ新たなソフトクリスタルの創製にも成功した。この[3]擬ロタキサン構造を用いた領域内共同研究も現在進行している。以上のように、研究はおおむね順調に進展したと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、ソフトクリスタル創製におけるビルディングブロックであるメタロナノベルトの合成法を確立し、この部分構造を用いた特異な相互作用について明らかにしてきた。次年度は、この特異な相互作用を利用することでメタロナノベルトを集積し、ソフトクリスタルを創製する。特に複数の環状オリゴエーテル部位を持つ分子との相互作用を利用することを検討する。また、これまでの研究で、キノキサリン骨格形成を鍵とした官能基化メタロナノベルトの構築にも成功しているため、金属配位結合等の相互作用を利用したメタロナノベルトの集積化も引き続き検討する。最終的には、内在性細孔を持つイオン性ソフトクリスタルの動的な特性を明らかにする。 また、ビルディングブロックであるメタロナノベルトの骨格そのものにも焦点を当て、異なる大きさのテンプレートを利用した四核、六核メタロナノベルトの構築や、トリプチセン以外のより柔軟な骨格を持つ屈曲型配位子を用いた新奇メタロナノベルトの構築も検討する。さらに、令和二年度に構築した[3]擬ロタキサンをビルディングブロックとした新たなソフトクスタルの創製にも挑戦する。
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