本研究では、同符号イオン種が連続的に集積する構造を意図的に導入したイオン性化学種を用いることで、極めて外部刺激によりナノ・マクロの物性が同時または逐次的に変調するソフトクリスタルの合理的な分子設計手法の確立を目指す。具体的には、具体的な研究方針として、(1) 柔軟性をもつイオン性平面金属錯体のソフトクリスタル、(2) 柔軟性をもつ平面性ラジカルイオン塩によるソフトクリスタル、を検討している。本年度は以下に示す研究を遂行した。 (1)に関して:カチオン性テルピリジン白金錯体およびカチオン性ビス(イソシアニド)金錯体、カチオン性ビス(N-ヘテロサイクリックカルベン)金錯体に対して、イオン液体によく用いられるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンを対アニオンとした分子系を設計・合成し、それらの固液相転移等の相転移挙動と光物性を検討した。その結果、高温液体状態から得られる結晶相を利用することで、非常に弱い力で著しい発光増強が観測される金属錯体塩の合成に成功した。また、固液相転移に基づく著しい発光色変化をもつ金錯体の合成にも成功している。これらについて、共同研究を進めている。 (2)に関して:各種イオン性開殻分子の安定化を検討し、通常は検討されてこなかった室温以上における物性、特に固液相転移や高温での結晶-結晶相転移に着目した研究を行っている。ジヒドロフェナジンラジカルカチオンにおいて固液相転移に基づく多中心結合が関与する集積構造が変化することで、近赤外吸収特性等の諸物性が著しく変調されることを見出した。最近では、ラジカルアニオンや磁性金属錯体等のイオン性開殻アニオン分子に着目した研究を進め、特異な相転移挙動を示す結晶系を得る設計指針を探求している。一連の研究は、凝集状態における多中心結合のコントロールという観点から基礎科学的に極めて重要な知見と考えている。
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